産業医は中小企業にも必要?選任の利点と効果的な活用方法

この記事はこのような方に向けて書いています。

・自社は中小企業だから産業医の選任は必要ないと思っている方

産業医の選任義務はないが、選任しようか迷っている方

従業員を抱える事業所であれば必ず関わることになる産業医ですが、産業医の選任義務があるかないかは各企業によって異なります。そもそも産業医は本当に必要なのか疑問に思っている方もいらっしゃるかもしれません。この記事では中小企業における産業医の役割について解説します。

目次

産業医とは

まず、産業医の仕事とは何でしょうか。

産業医とは労働者の健康と安全を守るために専門的立場から指導・助言を行う医師のことです。

具体的には健康診断の実施、ストレスを抱える労働者との面談、作業環境の管理、職場巡視などがあります。産業医は病院などに勤務する臨床医とは異なり、医師免許の所持の他にもいくつかの要件があります。

産業医の選任義務が生じる事業所の条件とは

一口に中小企業と言っても、各企業によって会社の条件は異なります。従業員数が10人の企業もあれば100人の企業もあるでしょう。産業医の選任義務が生じるのは常時 50 人以上の労働者を使用する事業場です。

産業医を選任しなければならない理由ができた時から14日以内に選任してください。

常時使用(*)している労働者数が50人未満の事業所には産業医の選任義務はありませんが、「選任義務がない」ということは選任しなくても法律に違反していることにはならない、罰則は特にない、という意味であり、選任する必要がないという意味ではありません。

厚生労働省は「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならない(=努力義務)」としています。

*常時使用している労働者とは日雇労働者、パートタイマー等の臨時労働者を含めた常態として使用する労働者のこと

産業医の選任義務がない事業所で産業医が関わる業務

産業医の選任義務がなくても、産業医が必要な業務は存在します。

1.医師からの意見聴取

労働安全衛生法第六十六条の四において健康診断の結果について医師(産業医)等から意見を聴取することが義務付けられています。

(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)

第六十六条の四 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。

2.長時間労働者などに対する医師による面接指導

省令で定められた要件に当てはまる労働者に対して医師による面接指導を行うことが義務付けられています。

(面接指導等)

第六十六条の八 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者(次条第一項に規定する者及び第六十六条の八の四第一項に規定する者を除く。以下この条において同じ。)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。

3.ストレスチェック

従業員が50人未満の事業所にはストレスチェックの実施義務はありませんが、半数以上の事業所で実施されています。ストレスチェックは明確な症状が出て業務に影響をきたす前に対処できるという点で有用であり、実施、結果の分析、高ストレスであると判断された場合の面接などに産業医が関わります。

4.休職・復職の判断

休職・復職の判断は産業医が行わなければならないわけではありませんが、対象者の主治医は患者の体調を中心に見ているので、労働環境などをよく理解していて、医学知識を持ち合わせている産業医が間に入ることで対応がスムーズになることがあります。

産業医を選任するメリットとは

常時 50 人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任の他にストレスチェックの実施、健康診断結果報告書の提出などが義務付けられている一方、労働者50人未満の事業所で行うことが確定しているのは健康診断実施後の就業上の措置について産業医の意見を仰ぐことだけであり、面接指導の頻度は各事業所によって異なります。面接指導の頻度が多い事業所は産業医を選任してもいいかもしれません。

産業医を選任するメリットはいくつかあります。

1.同じ産業医に担当してもらえる

産業医を選任していない場合、その都度産業保健センターや産業医紹介会社に派遣を依頼することになりますが、同じ産業医にあたる可能性は高いとは言えません。同じ産業医が担当するのであれば、事業所の企業文化や労働環境などを長期的に把握し、長時間労働などの問題に対して対策しやすくなります。また、事業者と産業医間の認識の差もできにくくなるでしょう。

2.労働者の体調不良、メンタルへのダメージを予防できる

同じ産業医が長期的に担当することで労働者の体調の変化やメンタルヘルスの不調に早い段階で気づきやすくなります。悪化する前に適切なサポートを提供することで労働者の負担もそれをフォローする周りの労働者の負担も軽減することができます。特に従業員数の少ない中小企業では、一人抜けた時の穴の大きさがより大きくなります。フォローに回った人がストレスを抱えてメンタルが崩れる…ということがないよう努めましょう。

3.労働者が産業医に相談しやすくなる

産業医が面談ごとにコロコロと変わっていると、信頼関係が構築できず、また、一から事情を説明するのが億劫になってしまい相談を諦めてしまうことも考えられます。産業医が固定されれば、自分のことを既によく知っている産業医になら相談してみようという考えを持つようになるかもしれません。

4.健康経営を促進できる

企業が経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらします。従業員等の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することを健康経営と言いますが、企業文化をよく理解した専属の専門家がいることで、より健康経営の促進させることができます。

5.社外へのアピールポイントになる

産業医を選任していることは従業員の健康に配慮しているという分かりやすい指標になります。求職者や取引先などに従業員の健康管理がしっかりしていると示すことで、印象が良くなると考えられます。

まとめ

ここまで中小企業における産業医の業務と選任のメリットについて解説しました。もちろん産業医の選任にはコストがかかりますが、そのコストに見合った利益は得られると考えられます。産業医をうまく使って従業員の健康管理に役立てましょう。

参考文献

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000168242.pdf

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103897.pdf

労働契約法 | e-Gov法令検索

労働安全衛生法 | e-Gov法令検索

記事をシェアする
  • URLをコピーしました!
目次