この記事はこのような方に向けて書いています。
・産業医をこれから雇おうと考えている病院の担当者の方
・病院に勤務するメンタルヘルス不調者に悩んでいる担当者の方
「病院で患者さんへの責任感で辛い」や「今日も夜勤やオンコールで呼ばれた」など時間外業務過多や人間関係で悩んでいる方がいるという話を聞く病院関係者は多いのではないでしょうか?
病院は患者の命を預かる職場です。
大規模になればなるほど救命救急科を抱えていたり入院病棟を抱えていたりして24時間対応の必要性があり、職員への負担は大きなものになります。また、十分な感染症対策を行っているとしても、感染症患者の診察・治療に医療従事者側がリスクを負うことに変わりはありません。患者の健康に直結するという責任の大きさ、これに伴うストレスによってメンタルヘルスに不調をきたす可能性も大いに考えられます。このような職場では産業医の役割がより重要になってきます。
本記事では産業医選びでお悩みの人事・労務担当者に向けて産業医を選定する際の注目ポイントとは何か、病院に向いている産業医とはどういうものか解説しています。また最後には記事のまとめとなるチェックリストも記載しています。
ぜひ、産業医を契約中の方はその産業医が本記事で解説した特徴を持っているか、産業医をこれから契約する方は産業医を選ぶにあたって何に注目すればいいのかをこの機会にご確認してみてはいかがでしょうか。
産業医についてもっと知りたい方がいらっしゃれば、お気軽にお問い合わせください。
病院での労働災害と時間外労働
病院での労働災害と聞いてどのようなことが思い浮かびますか?
病院における労働災害は多様で、職員が直面するリスクは複雑です。そのため、どのような事例でどのような労働災害が起きるのかを把握し、それに対して対策することが重要になります。
最近の事例では、大学病院で勤務医が宿直した際に深夜から朝まで入院患者の死亡に対応したにも関わらず、病院が「宿日直許可」を得ていることを理由に厚生労働省が労働時間として認めない判断をしました。このような状況は、医師の長時間労働を助長することになり、健全とは言えません。
*宿日直許可:夜間や土日に入院患者の急変や外来患者に対応するため医師が待機する「宿直」「日直」について、業務が「軽度または短時間」であれば、労働基準監督署の許可によって、特例的に労働時間としてみなさなくてもよくなる制度です。
労働災害の原因
労働災害発生の原因は7類型(生物学的要因、物理的要因、化学的要因、人間工学的要因、交通移動要因、勤務・労働時間要因、心理・社会的要因)に区分されます。
具体的には
- 感染症のリスク
- 化学物質(消毒剤、薬剤、清掃薬剤など)によるアレルギーや健康被害
- 不安定な姿勢や重い作業による腰痛、首痛、肩痛、手首痛
- シフト制による長時間労働や夜勤の常態化
- 夜間オンコールによる睡眠障害や生活リズムの乱れ
- 患者や同僚からのハラスメント
- 生命に直面する状況による精神的ストレス
などが挙げられます。
また、厚生労働省の報告によると、医療保健分野では、転倒や無理な動作による労働災害が多く報告されています。無理な動作による労働災害の例として患者のベッド移動や介助による腰痛などがあります。
精神的な問題:
①ハラスメント
緊急性の高い場面では、社会的に不適切な態度や発言が問題視されにくい傾向があり、ハラスメントの問題が表面化しにくい状況があります。現場で最優先されるのは患者の命であるという意識から見逃されてしまう上司から部下(指導係から若手、医師から看護師その他医療従事者など)へのハラスメントのほか、病気や怪我でストレスを抱えているから仕方ないという考えで見逃されてしまう患者から医療従事者へのハラスメントなどが例として挙げられます。
特に看護職では患者からのハラスメントのリスクが高くなっており、夜勤や長時間労働が女性職員に集中しやすいのも問題です。
②患者の命に関わっているという緊張
医療の現場では一つの判断、一瞬の判断で患者の命を左右することもあるでしょう。絶対にミスをしてはならないという緊張感は知らず知らずのうちに精神的にも身体的にも疲労を蓄積させ、やがて不調として現れます。
③夜勤やオンコールなどによる生活リズムの乱れ
夜勤やオンコールなどにより質・量ともに十分な休息が取れないことでホルモンバランスが崩れ、そこに上記のストレスが重なった結果うつ病などを引き起こすことがあります。
これらの問題が起こりうる状況へのリスクアセスメントを行い、病院は労働災害防止のための対策として、職員の労働環境の改善、メンタルヘルスケアの強化、ハラスメント防止策の実施など、多角的なアプローチが求められています。
病院が産業医を選定する際の注意点
産業医の選定の条件についてどこまで知っているでしょうか?
法的義務
- 産業医の選任義務:まず、常時50人以上の労働者を使用する病院やクリニックにおいては、事業者は産業医を選任しなければなりません。(労働安全衛生法第13条、労働安全衛生法施行令5条)
- 産業医の届出の重要性:産業医を新たに選任する場合や、既存の産業医を変更する際には、労働基準監督署への届け出が必須です。(労働安全衛生規則第2条第2項、同規則第13条第2項)
選定時の注意点
- 代表者の兼任の禁止:労働安全衛生規則が改正されたことで(平成29年4月1日施行)、法人の代表者(病院長等)が産業医等を選任することは禁止になっています。これは、病院経営と職員の健康管理の間に利益の衝突が生じる可能性があるためです。
これらをまず大前提にして、病院やクリニックで健康と安全を支えるために最適な産業医を選定することが必要不可欠になります。
それではどのような産業医が病院やクリニックに向いているのか述べていきます。
病院に向いている産業医の3つの特徴
産業医に必要な知識を備えていることは前提として、病院に向いている産業医の特徴を解説します。
1.経営陣との中立的な関係
慣れない産業医では、病院経営陣と深い関わりがあると、労働者の健康管理と事業経営上の利益が一致しない場合に経営陣の意向をして産業医としての職務が適切に遂行されないおそれがあります。
産業医は経営陣の意見を踏まえつつも、第三者としての立場を保ち、中立的な判断を下すことが重要です。またときには、病院経営陣に対しても、諫言ができることが必要になります。
病院としては意向に忠実に従ってもらえる方がいいと思われるかもしれませんが、産業医が中立な立場を守り、不適切な人事などを防ぐことは結果的に不要なリスクを回避することにつながるので、経営側にもメリットがあると言えるでしょう。
2.コミュニケーション能力があること
産業医は、医師だけでなく看護師、技術者、管理職など、様々な職種の職員と円滑にコミュニケーションを取る必要があります。彼らが何で悩んでいるのか、改善すべき点は何かを適切に把握できるよう、円滑なコミュニケーションを取れることが重要になってきます。
3.柔軟性と適応力
病院の環境は絶えず変化しているため、産業医には柔軟性と適応力が不可欠です。新しい政策や状況に迅速に対応し、問題解決を図る能力が求められます。例えば2024年4月から「医師の働き方改革」が始まり、時間外労働が原則年960時間(月80時間相当)に罰則付きで規制されるようになります。このような情報を素早くキャッチし産業医としての職務に生かせる適応力は重要になってきます。
総括:病院における産業医のチェックリスト
病院で求められる産業医の特徴について考察した記事はいかがでしたでしょうか?自分の職場の産業医は、今回の記事で述べたような特徴をしっかり備えていましたか?
病院における産業医の役割は多岐に渡り、臨床という側面で病院をみるのではなく、職場の健康と安全の環境を向上させるために行動することが重要となります。そして、職場にマッチした産業医を選ぶ事ができると、労働災害のリスクを低減させることだけでなく、労働環境の質の向上と従業員の意識改革につながり、結果的に生産性の向上にも寄与するのです。
産業医を選ぶ際には、その経験、知識、技術、およびコミュニケーション能力を総合的に評価していくことが重要です。今回挙げた特徴も有効活用してあなたの職場にあった産業医を選定できれば幸いです。
最後に、病院が採用すべき産業医の基準をチェックリストにまとめました。
あなたの職場の産業医は大丈夫??病院の産業医チェックリスト
【必須条件】
□ 臨床現場への理解 :病院の現状を理解し、適切なコミュニケーションがとれるか
□ 知識や経験の有無 :法律や危険物の管理などに精通しているか
□ 説明の明瞭さ:専門用語を避け、従業員にわかりやすい用語を使えるか
□ 傾聴力:経験や知識だけを主張せず、会社の状況を踏まえながら一緒に考えてくれるか
□ 迅速な連絡対応:問い合わせに対するレスポンスが迅速か
【副次条件】
□ 病院経営陣との関わりがないか:病院の利益のためではなく、従業員の立場に立てるか
これらは病院が雇うべき産業医の条件の一例です。そして、この項目の中で、特に大事になることは『現場にあった提案をすることのできる産業医』です。現在の産業医がこの条件を満たさない場合は、変更を検討することも一つの選択肢です。
「病院に向いている産業医」についての記事はいかかでしたでしょうか?
ライフインベスターズでは、コミュニケーション能力や専門性など、書類や面接審査を通じて一定の基準を満たした厳選した産業医が所属しております。
大手法人様はもちろん、これから衛生委員会を立ち上げるスタートアップ・ベンチャー企業様への対応経験も豊富にございます。特にメンタル対応についてお困りの法人様から専門性の高さで高くご評価いただいておりますので、産業医の交代を含め、何かお困りやご不満がございましたら、無料のオンライン相談も受けつけておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
【参考文献】
1.厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
産業医を選任していますか?代表者が産業医を兼務していませんか?
2.厚生労働省
看護職の作業態様、労働災害防止対策等について
3.朝日新聞DIGITAL 2023.9.22
病院で宿直中に死亡対応しても「労働時間ゼロ」 労災申請で国が判断