人事労務担当者必見!産業医面談でクビにはできない?~産業医面談における退職勧奨の扱いとは~

この記事はこのような方に向けて書いています。

・産業医から休職中の従業員やメンタルヘルスに不調を抱えている従業員に対して退職勧奨を行うことは可能なのか知りたい方

・産業医を通して企業側からクビにされようとしているのではないかと感じている従業員がいて対応に困っている人事担当者の方

様々な事情により休職している人やメンタルヘルスに不調をきたしている方にとってクビにされるのではないかという不安は常に付きまとうものです。非常にデリケートな問題なので産業医面談の際にも細心の注意を払う必要があります。この記事では産業医面談における退職勧奨の扱いや、従業員からクレームが来る可能性のある状況について解説します。

目次

産業医面談とは

産業医面談とは従業員の健康をサポートするために行われる面談のことです。産業医は医学的な知識を持つ専門家の立場から従業員に対して助言を行います。長時間労働の従業員に対しては産業医による面接指導が義務付けられているほか、健康に問題を抱えている従業員の体調が悪化する前に労働時間の制限をしたい、労働環境の改善ポイントを知りたい、医学的な指導を行った方がいいと判断した場合などに行います。

なお、産業医には守秘義務と報告義務があります。

産業医面談など、産業医の職務を行う上で知り得た労働者に関する情報は正当な理由なく漏らしてはならないと労働安全衛生法第105条や刑法134条で定められています。

(健康診断等に関する秘密の保持) 第百五条 第六十五条の二第一項及び第六十六条第一項から第四項までの規定による健康診断、第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項の規定による面接指導、第六十六条の十第一項の規定による検査又は同条第三項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。

労働安全衛生法第105条

(秘密漏示) 第百三十四条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

刑法134条

本人の同意なく報告することができる正当な理由は

・法令に基づく場合

・第三者の利益を保護するために秘密を開示する場合

・患者や他の者に対して現実に差し迫って危害が及ぶおそれがあり、守秘義務に違反しなければその危険を回避することができない場合

などです。

具体的には、

  • 労働者に自殺のリスクがある時
  • 就業制限が必要とされる感染症や伝染病にかかり、周囲に感染させる可能性がある時
  • 現状の労働環境のまま働かせると病状が悪化する恐れがある場合

などです。

正当な理由があっても労働者本人の感情は別であり、トラブルに発展しかねないので、情報を開示する際にはできるだけ同意を得る、開示後に理由を丁寧に説明する等のアフターフォローをするなど慎重に対応した方が良いです。

また、産業医は面談で従業員に健康上の問題があると知った場合はその旨を事業者に報告しなければなりません。基本的に守秘義務の方が優先されるので事業者へ報告を行う際は従業員の同意を得たうえで行われます。

産業医面談で退職勧奨することは可能なのか

メンタルヘルスの不調や身体的な病気、その他の事情などで長期間休職していたり、復職後も遅刻や欠勤を繰り返したりしている従業員に対して、退職してほしいと思っている人事担当者の方もいらっしゃるかもしれません。休職はともかく復職したうえで遅刻や欠勤が重なると穴が開くタイミングに波ができてマネジメントにも支障をきたし、困っているというケースもありがちです。産業医の方から従業員に対して退職勧告をしてもらった方が角が立たないのではないかと考える方も少なくありません。

しかし、結論から言うと産業医面談で退職勧奨することはできません。

産業医に認められている権限の一つに「勧告権」があります。

労働安全衛生法第13条5項で以下のように定められています。

5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。

この権限は労働者の健康を確保するために用いるものですので、健康維持のために勤務時間を調整するなどの就業制限をかけることはあっても退職を促すことはできません。

退職勧奨は法的に認められている範囲を逸脱しています。第一に産業医は中立性を守る立場であり、退職勧奨はあくまで企業と従業員の間で行われるものであるということを記憶にとどめておきましょう。

ただ、従業員と企業が「休職期間満了までに復職できない場合は雇用関係を終了する」という契約をしている場合に、従業員の様子を見て休職期間満了までに復職許可を出せるような状況ではないと判断し、許可を出さなかった時はある意味で産業医が間接的に退職させたと考えられなくもありませんが、これは従業員の健康を守るために上記の権限を行使した結果に過ぎません。

また、産業医と従業員が話し合った結果、従業員本人が健康面等を退職した方が良いと判断し、退職に至るケースもあります。

従業員が産業医面談で退職を促されたと感じる瞬間とは

では従業員はどのような時に退職を促されたと感じるのでしょうか。

転職の話をされた時

転職の話をされると婉曲的に仕事をやめろと言われているのではないかと感じてしまいます。ただ、この場合は産業医は従業員の健康を守るために適切な対応は何かを考える際の判断材料として従業員の意思を確認しているケースもあるます。質問の意図を明確化して従業員に示してあげると認識のずれを防ぐことができます。特に意味もなく尋ねるのは避けた方が無難かもしれません。

仕事があっていないのではないかと言われた時

「仕事があっていない(から仕事をやめろ)」と受け取られる可能性があります。これも転職の話と同様に従業員の意思確認をしている場合は質問意図をはっきりと示すことですれ違いを防ぐことができるでしょう。

復職を希望しているのに復職許可をもらえない時

就業規則に定められた休職可能期間が迫っていて、復職を希望しているのに復職許可が下りないときに間接的に退職を促されていると感じているケースがあります。この場合、復職許可を出せないのはまだ十分に体調が回復していないからですが、休職可能期間の満了期限が迫って気持ちが焦っていると産業医を敵視してしまいがちです。復職許可を出せない理由を丁寧に説明し、従業員から理解を得られるように努めましょう。また必要であれば、産業医と相談の上、主治医に情報提供依頼書を提出し、主治医と連携を行い、対応していくことが必要です。

退職を勧められた時

直接的に退職を勧められるのは産業医の権限を逸脱しており、法的にアウトですのでこのようなことが起きないよう注意しましょう。

従業員から産業医に対するクレームが出た時にとるべき対応とは

従業員から「産業医の先生に退職を勧められた」「クビにするぞと言われた」というクレームが来た場合はどのような対応を取ればいいのでしょうか。

産業医に事実確認をする

まずは産業医に事実確認をしましょう。産業医がついつい勢いでクビだと口走った産業医側に非があるケースと産業医は適切な対応を取っているのにナーバスになっている従業員が産業医に圧力をかけられたと思い込んでいるケースがあります。従業員と産業医双方の意見を丁寧に聞き取り、事実確認に努めましょう。産業医に非があった場合は改善を求めたり産業医を変更したりという対応を、従業員の思い込みの場合は従業員のフォローを行います。

産業医面談に第三者を立ち会わせる

産業医と従業員の二人の面談だと従業員の中には過度に緊張したり、圧迫面接のように感じてしまう方もいらっしゃいます。直属の上司や人事担当者など第三者を立ち会わせることで産業医面談の透明化を図ることができます。基本的に産業医面談は従業員のプライバシーを守るため、産業医と従業員の一対一で行いますが、従業員の同意が得られた場合はこのような対応も一つの手です。

まとめ

ここまで産業医面談と退職勧奨について解説しました。仕事を続けるかやめるかは今後の人生に関わる大きな問題であり、その分この問題を取り扱うときは神経を使います。従業員側はどう感じているのか、正しい意図を伝えるにはどうすればよいのか、産業医・従業員・企業の立場や職務範囲、認められている権限はどうなっているのかを今一度確認し、要らぬトラブルは回避するよう努めましょう。

ライフインベスターズでは、コミュニケーション能力や専門性など、書類や面接審査を通じて一定の基準を満たした厳選した産業医が所属しております。

大手法人様はもちろん、これから衛生委員会を立ち上げるスタートアップ・ベンチャー企業様への対応経験も豊富にございます。特にメンタル対応についてお困りの法人様から専門性の高さで高くご評価いただいておりますので、産業医の交代を含め、何かお困りやご不満がございましたら、無料のオンライン相談も受けつけておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

【参考文献】

労働安全衛生法 | e-Gov法令検索

08.pdf (mhlw.go.jp)

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