落ち込んでいる部下に皆さんはどう声をかけますか?実際に産業医として勤務していると、適応障害の部下や同僚にどう対応すればいいのかと悩む方も多くいらっしゃいます。
上記のように年々メンタルヘルスによる労災認定件数は増加しており、国としても早期の対応が望まれています。
しかし、実情ではメンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所では全体で6割以下という現状もあり、これらへの対応が求められています。
今回企業でメンタル不調者の対応もしている産業医の私が詳細について解説していきます。
自社の産業医がメンタル対応してくれないなど自社の産業医に何かお困りの方はお気軽にご相談ください!
部下に関係する適応障害とは?
医学的定義と診断基準:
「適応障害って一体何?」と疑問に思った方はいませんか?
適応障害は、私たちの生活や職場での大きな変化、深刻なストレスにより生じる心理的な負荷の状態を指します。これは決して「気のせい」や単なる「弱さ」とは違います。具体的には、胸が苦しくなるような不安、落ち込み、睡眠障害、仕事への集中困難などが挙げられます。
診断の際には、DSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル)の適応障害の基準が用いられます。これによると、特定のストレス源やその後の生活や職務への影響が診断の鍵となります。症状は、ストレス源が軽減されたり解消されると、通常は和らぎます。
適応障害への理解と対応は、心理的な負荷に対する共感と適切なアプローチの基盤となります。私たちは、その原因となるストレス源を理解し、対応する必要があるのです
それではより具体的に職場で起きる適応障害の症状について述べていきましょう。
職場での適応障害の兆候の3つの識別
一般的な症状と職場での表れ方
「適応障害はどんな症状がでるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。適応障害は、大きく分けて、心理的および身体的な症状の2つのパターンに分けることができます。身体的な症状は周りに気づかれることもありますが、心理的なものは中々気づかれないことも多いです。
そのため、これらの症状が職場でどのように影響を及ぼすかを理解することは重要となります。
心理的症状:
- 不安や抑うつ:仕事に対する意欲の低下、業務遂行能力の低下。
- 感情の起伏:同僚や上司との関係が不安定になる。
- 集中力の喪失:ミスが増加、仕事の効率が下がる。
身体的症状:
- 睡眠障害:ベットに入っても眠れない、朝早くに目がさめる、明け方に目がさめる。
- 勤怠の乱れ:業務での突発の遅刻や早退、欠勤が増える。
- 疲労感:休日に疲労で動けなくなる、寝ても疲労がとれない
などが挙げられます。心理的な面と身体的な面は相互関係でもあることがありますが、一般的に上司が気付きやすい部分は身体的な症状になります。
より詳しくみていきましょう。
上司や同僚が気付きやすい適応障害の兆候
「具体的な適応障害ではどこを気にしたらいいの?」と疑問に思っている方がいるかもしれません。
適応障害とうつ病や双極性障害など他の心的問題との主な違いは、ストレス源が取り除かれれば症状が軽くなることです。
具体的な兆候:
- 行動パターンの変化:例えば、以前は協力的だった従業員が孤立する、または逆に過度に攻撃的になる。
- 気分の波:日々の気分が不安定で、予測不可能な反応を示す。
- 集中力の喪失:細かいミスが増える、重要な業務を見落とす。
このようなことが挙げられます。この一つ一つに気づくには日頃から従業員とコミュニケーションを取り、変化に気づくように意識することが重要になります。アプローチ方法についてより詳しく見ていきましょう。
適応障害の部下への効果的な4つのアプローチ
適応障害に苦しむ部下に対して、上司や同僚として、ただ職務を超えた理解と共感に基づくサポートが求められます。特に、私たちの言動や行動は、短期的にも長期的にも、部下の心理的安全感と回復過程に大きな影響を及ぼす可能性があります。ここでは、適応障害を持つ部下に対して避けるべき行動や言動と、その理由を深く掘り下げていきます。
避けるべき行動と言動
否定的なコメント:
- 理由:部下の感情や体験を否定することは、信頼関係を損ない、「話しても無駄だ」という感覚を生じさせる可能性があります。
- 具体例:「大したことない」や「私の経験ではもっと大変だった」といった言葉は避けるべきです。
つまり、部下の発言を評価するのではなく、共感する姿勢や傾聴する姿勢が重要になります。
過度な圧力の適用:
- 理由:ストレスを増大させ、部下の症状を悪化させる可能性があります。
- 具体例:「早く元の状態に戻るべきだ」といった圧力をかける言動は避けるべきです。
上司として仕事の進捗状況から『早く元に戻ってほしい』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この対応をしてしまうと症状がより悪化する可能性があります。どの分野でストレスを抱えているのかを分析し、そのストレスを軽減してあげることが重要になります。
プライバシーの侵害:
- 理由:部下のプライバシーに対する不適切な関心や詮索は、相手の信頼を損ない、不快感を与える可能性があります。
- 具体例:個人的な健康情報や家庭状況について、必要以上に詮索せず、相手から自発的に話すまで待つことが重要です。
こちらからプライバシーが詮索することなく、自分自身のプライバシー等を開示することで相手から自主的に開示するまで発言を待つ必要があります。
職務に対する不適切な期待:
- 理由:適応障害を抱える部下に対する通常のパフォーマンスの期待は、回復を妨げることがあります。
- 具体例:症状が現れているにもかかわらず、過度の業務負荷を課すことは避けるべきです。
このような意識を持つことで、部下は安心して自分の状況を共有し、必要なサポートを受ける環境が整います。これは部下の回復を促進し、職場全体の健康と生産性を向上させることに寄与します。
休職中の部下への適切なサポートと配慮は、その人の回復と職場復帰を円滑にする重要となります。
- 休職プロセス:手続きの詳細、法的要件、職場でのサポート体制の構築。
- 休職中のコミュニケーション:適切な頻度と方法、個人のプライバシーと福祉の尊重。
- メンタルヘルスケアリソースの提供:産業医の紹介、カウンセリングプログラムの活用、その他のサポートサービス。
復職へのサポート
- 復職前の準備:医師の診断書の取得、職場適応計画の作成、従業員の準備支援。
- 産業医によるフォローアップ:定期的なモニタリング、復職後の状況評価、必要に応じた調整。
- 復職時の職場環境調整:柔軟な勤務体系の提供、業務負荷の調整、サポート体制の強化。
詳細について知りたい場合は以下の記事から復職の流れについて解説しています。
まとめと今後の取り組み
- 職場内のメンタルヘルス意識向上:教育プログラム、意識改革の取り組み、長期的な戦略。
職場内でのメンタルヘルスへの取り組みは、組織全体の健康と生産性の向上に不可欠です。上記の記事で述べてきたように部下への兆候や対応方法の前知識をもとに対応することが必要不可欠になります。
以下に具体的な戦略を挙げます。大々的に職場のメンタルヘルス環境を強化し、継続的な改善を目指すことが重要になります。
職場内のメンタルヘルス意識向上
メンタルヘルスの意識向上は、教育プログラムと意識改革の取り組みを通じて、長期的な戦略の一部として組み込まれます。
- 教育プログラムの実施:メンタルヘルスに関する知識と理解を深めるための教育プログラムを計画・実施します。
- 意識改革の取り組み:メンタルヘルスに関する偏見の解消、オープンな対話の促進など、職場文化の改革を目指します。
- 長期的な戦略の策定:持続可能なメンタルヘルスケア体制を構築するための長期的な戦略を立案します。
産業医の役割の強調
産業医と人事担当者との協力は、メンタルヘルス対策の成功に不可欠です。
- 産業医との協力:産業医と人事担当者が連携し、効果的なメンタルヘルスケア体制を構築します。
- 契約のメリットの強調:産業医の専門知識と経験を活用することのメリットを強調します。
- 成功事例の紹介:産業医との協働による成功事例を共有し、ベストプラクティスを広めます。
これらの取り組みを通じて、職場内のメンタルヘルス環境を強化し、従業員の福祉と組織の生産性の向上を目指すことが重要です。
この記事が、職場の安全衛生委員会をより活性化し、産業医の重要性を理解するための参考になれば幸いです。
安全な職場環境の構築と維持は、すべての企業の責任であり、企業としても適切な産業医と協力することで専門知識がその実現に大いに貢献するはずです。
メンタルヘルス対応に強い産業医についてもっと知りたいや、そんな産業医と契約したいと考えておられる人事労務担当者の方が入れば、以下の問い合わせフォームやオンライン相談をお気軽にお使いください。