この記事はこのような方に向けて書いています。
・産業医が予定通り働いてくれずに困っている海運業及び漁業の人事・労務担当者の方
・産業医をこれから雇おうと考えている海運業及び漁業の人事・労務担当者の方
産業医と契約するにあたりどのような点に注意すればよいのか悩んでいませんか?
船員の労働は気象や海象の影響を受けやすく、常に危険と隣り合わせです。船員災害の発生件数は年々減少していますが、陸上に比べて災害の発生率が高いことに変わりありません。また、船舶という閉じられた空間での作業はメンタルにも影響を及ぼします。
船員が安心して働けるよう、産業医は船員災害の発生を防止するとともに、快適な作業環境を整備し、船員の安全と健康を守ることが求められています。
今回、自社にあった産業医選びにお困りの人事・労務担当者向けに、海運・漁業の分野でどのような産業医と契約すべきなのかについての記事を作成しました。また最後には、簡単な海運業・漁業に向いている産業医を見分けるためのチェックリストも記載しています。
産業医を契約中の方は自社の産業医が本記事で解説した特徴を持っているか、産業医をこれから雇うことを考えている方は産業医を選ぶにあたって何に注目すればいいのかをぜひこの機会にご確認してみてください。
船員災害と疾病について
船員における4日以上の休業を要する労働災害の発生件数は陸上労働者の約4倍にのぼります。死傷災害発生率、疾病発生率は50年前の約5~6分の1まで減少していますが、ここ20年の減少率は頭打ちになっています。
船員災害
船員災害の休業日数は長期間にわたることが多く、また、50歳以上の割合が半数を占めています。船員の高齢化が進んでいることの理由の1つですが、高齢であるほど災害に遭いやすくなると言えるでしょう。
※漁ろう…魚を獲る行為そのもの
引用:船員災害疾病状況集計書(令和3年度)
災害を作業別に示すと、「整備・管理作業」112人(21.1%)、「漁ろう作業」89人(16.7%)、「出入港作業」77人(14.5%)、「荷役作業」52人(9.8%)となっています。 また、『一般船舶』では「整備・管理作業」62人(34.6%)、『漁船』では「漁ろう作業」89人(31.9%)、『その他』では「出入港作業」23人(31.1%)がそれぞれ最も多くなっています。
種類別では「転倒」119人(22.4%)、「はさまれ」80人(15.0%)、「転落・墜落」68人(12.8%)、「動作の反動無理な動作」67人(12.6%)、「飛来・落下」47人(8.9%)、「まき込まれ」38人(7.1%)、「激突」20人(3.8%)、
の順になっています。
船員の疾病
疾病別発生状況
引用:船員災害疾病状況集計書(令和3年度)
疾病の発生については「感染症の疾患」279人(40.0%)が最も多く、新型コロナウイルスの感染が269人を占めています。 次に多いのは「筋骨格系の疾患」88人(12.5%)で、内訳は、「椎間板障害」22人、「腰痛・坐骨神経痛の疾患」17人、「関節症」17人となっています。
新型コロナウイルスのほかにもノロウイルスなどの集団感染が問題になる感染症はあります。長期の航海の場合はより感染症対策に力を入れた方が良いでしょう。
また、船員は陸上労働者に比べメタボリックシンドロームの割合が10%高くなっています。限られた空間のため、運動不足、不規則な睡眠や食生活により生活習慣病のリスクも高くなっています。
メンタルヘルス
メンタルヘルス系の疾病は、34人で前年度と比較すると増加しており、20代が17人(50%)と最も多く、次いで40代が10人(29%)となっています。不規則な睡眠はメンタルにも影響を及ぼすほか、人間関係をストレスの原因だと感じている人の割合が高くなっています。また、船員は陸上労働者に比べ喫煙者の割合が10%高くなっています。これは必ずしもストレスとの関係があるとは言えませんが、喫煙によるニコチンの供給で一時的にストレスが解消されることも理由の一つではないかと考えられます。
孤独もストレスの原因の一つです。船員は長期間家族や友人と離れて過ごすだけでなく、船上でも孤立した生活を送ります。また、船の自動化によって同乗する船員の数自体も減っているので孤立感はさらに増します。企業と産業医はメンタルヘルスのケアにも重点的に取り組む必要があると言えるでしょう。
産業医選定の対象
船員向け産業医制度の実施対象となるのは「常時50人以上の船員を使用する船舶所有者」です。
「常時使用する船員」とは、次のいずれかに該当する船員のことを指します。
① 期間の定めのない契約により使用される船員
② 期間の定めのある契約により使用される者であって、1年以上使用されることが予定 されている船員
③ 期間の定めのある契約により使用される者であって、契約の更新(当該期間の延長) により1年以上使用されている船員
船員向け産業医の4つの特徴
1.企業文化をより理解しようとする
海運業・漁業は、長時間労働、夜間労働、そして高い身体的及び精神的ストレスがある職場環境が多いという特徴があります。
これらの特徴は、従業員の健康に直接的な影響を及ぼすため、産業医には企業の環境を深く理解し、対応策を講じることが求められます。
長時間労働と睡眠の問題:船員は長期間連続乗船が一般的なので、長時間労働になりやすい傾向があります。産業医は、従業員の睡眠の質の向上や、適切な休憩時間の確保を推奨することが重要となります。
ストレスと孤独感: 家族や友人と長期間離れる孤独感や海上生活・人間関係でのストレスはメンタルヘルスに不調をきたす原因になります。産業医は企業と協力して、労働者一人一人のメンタルヘルスのサポートやストレスマネジメントの方法を提供することができます。
これらの対策を通じて、産業医は船員の健康を守り、生産性の向上に貢献することができます。海運業・漁業の企業文化を理解し、それに基づいた健康管理策を講じることは、産業医の重要な役割の一つです。
2.労働安全衛生法やその他の産業保健法に関して知識がある
船員を雇用するうえで遵守すべき法令は数多くあります。これらに対し、多くの企業が正確な理解と適切な対処に苦労しています。海運業・漁業における産業医は、これらの法律に精通し、企業の状況に応じた具体的な提案とサポートを行うことが求められます。
海運業・漁業における産業医は「健康と安全」の相談相手という側面だけでなく、リスクアセスメントと対策のサポート役として重要な役割を果たしています。
3.迅速なレスポンスと緊急事態などにも対応して動ける
重大な労働災害が発生した際、産業医は企業と協力し、事故予防措置や対策の実施、従業員の身体的・精神的サポートを行うことが重要になります。
また、違法行為による業務停止命令のリスクがある場合、産業医は業務のリスク評価を行い、船員の健康状態を確認し、問題の未然防止に努める必要があります。
これらは迅速さが不可欠であり、対応が遅れると損害につながる可能性があります。
海運業・漁業における産業医は、健康管理の専門家であり、企業の安全文化の形成と維持に重要な役割を果たします。さらに、組織改革のサポートや予防的対策などにも貢献することができます。
4.外国人船員の対応ができる
外国人船員は年々増加しています。しかし、言語の壁や文化の違いから、労働災害のリスクが高まっているのが事実です。
このような状況では、産業医の役割が重要となるかもしれません。企業と協力し、産業医は多言語に対応した安全教育資料策定や労働者間の情報伝達のギャップを埋めるサポートを行うことができます。
まとめ:海運業・漁業に必要な産業医
ここまで船員災害と海運業・漁業に必要な産業医の特徴について解説してきましたが、自社の産業医はいかがでしたでしょうか。
海運業・漁業における産業医は企業の健康と安全の環境を向上させるために大切です。そして、企業にマッチした産業医を選ぶ事ができると、労働災害のリスクを低減させることだけでなく、労働環境の質の向上と従業員の意識改革につながり、結果的に企業の生産性の向上にも寄与するのです。
企業が産業医を選ぶ際には、その経験、知識、技術、およびコミュニケーション能力を総合的に評価していくことが重要です。今回挙げた特徴も有効活用して企業にあった産業医を選定できれば幸いです。
最後に、海運業・漁業の企業が採用すべき産業医の基準をチェックリストにまとめました。
あなたの会社の産業医は大丈夫??海運業・漁業の産業医チェックリスト
【必須条件】
□ 企業文化への理解 :企業の現状を理解し、適切なコミュニケーションがとれるか
□ 知識や経験の有無 :法律や危険物の管理などに精通しているか
□ 説明のわかりやすさ:専門用語ではなく従業員にわかりやすい用語を使えるか
□ 傾聴力:経験や知識だけを主張せず、会社の状況を踏まえながら一緒に考えてくれるか
□ 迅速な連絡対応:メールや電話は当日中か翌日には返事があるか
【副次条件】
□ 海外展開する企業での勤務歴:企業と相談して臨機応変に対応できるか
これらは海運業・漁業の企業が雇うべき産業医の条件の一例です。そして、この項目の中で、特に大事になることは企業文化にあった提案をすることのできる産業医です。現在の産業医がこの条件を満たさない場合は、変更を検討する価値があるかもしれません。
「海運業・漁業に必要な産業医」についての記事はいかかでしたでしょうか?
国土交通省の船員向け産業医選任活用マニュアルもご参照ください。
ライフインベスターズでは、コミュニケーション能力や専門性など、書類や面接審査を通じて一定の基準を満たした厳選した産業医が所属しております。
大手法人様はもちろん、これから衛生委員会を立ち上げるスタートアップ・ベンチャー企業様への対応経験も豊富にございます。特にメンタル対応についてお困りの法人様から専門性の高さで高くご評価いただいておりますので、産業医の交代を含め、何かお困りやご不満がございましたら、無料のオンライン相談も受けつけておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
【参考文献】
1.国土交通省 船員向け産業医選任活用マニュアル 001590421.pdf (mlit.go.jp)
2.海事:安全衛生施策を通じた船員災害防止の推進について – 国土交通省 (mlit.go.jp)
3.船員災害疾病発生状況報告(船員法第111条)集計書 001594989.pdf (mlit.go.jp)