この記事はこのような方に向けて書いています。
・保護具着用管理責任者になったが、どんな仕事内容をすればよいのか困っている方
・職場の安全管理や危機管理対策を強化したい方
現代の職場では、従業員の安全確保が最優先課題の一つとなっています。特に、保護具着用管理責任者は、職場内での保護具の選定や着用の監督を行う重要な役割を担っています。しかし、具体的に何をすればよいのか、どのように保護具の適切な管理を実現すれば良いのか悩む方も多いかもしれません。本記事では、保護具着用管理責任者としての役割や業務内容、職場の安全対策を成功させるための実践的なアプローチを詳しく解説します。
保護具未着用による労働災害事例
労働災害にはさまざまな原因が考えられますが、特に保護具未着用によって起こる災害は適切な対策を講じることで防ぐことができたものが多くあります。ここでは保護具未着用による典型的な労働災害事例をいくつか紹介します。
事例1:産業廃棄物焼却炉の集じん装置を点検中に発生した火傷事故
ある作業員が「焼却灰がまったく出ていない」との報告を受け、焼却灰の排出口付近で集じん装置の点検を行っていた際、突然装置内部から大量の焼却灰が落下・飛散しました。その結果、作業員は約400~500℃の高温の焼却灰をかぶり、深刻な火傷を負いました。この事故の原因の一つは、高温部分での作業に必要な耐熱服などの火傷防止用保護具を着用していなかったことです。通常の綿製長袖作業服で作業を行ったため、被害を避けられませんでした。もし適切な保護具を着用していれば、この火傷事故は防ぐことができたと思われます。
事例2:簡易水道導水管敷設工事の一酸化炭素中毒事故
冬季のある工事現場で、練炭養生中の取水ボックス内に作業員が立ち入り、一酸化炭素中毒により死亡するという事故が発生しました。この事故では、取水ボックスの上部をビニルシートで覆い、内部に練炭コンロを吊り下げてコンクリートを養生していましたが、作業員は練炭の一酸化炭素中毒のリスクについて十分な教育を受けておらず、必要な呼吸用保護具を着用しないまま作業に入ったことが原因と考えられています。このような状況では、保護具の着用は必須であり、教育が重要になります。
事例3:殺虫剤散布作業中に発生した薬物中毒
殺虫剤を噴霧器に入れて散布の準備をしていた際、散布ノズルが意図せず開き、殺虫剤が作業員の顔面に直接噴射される事故が起こりました。作業員は防護用のマスクや保護眼鏡、手袋を着用していなかったため、殺虫剤を浴びてしまい、一部を飲み込んで薬物中毒に陥りました。もし、農薬散布用の保護具を正しく着用していたなら、この災害は防ぐことできたかもしれません。
ご紹介した労災事例はほんの一部です。保護具をきちんと使用することが労働災害防止においていかに重要かご理解いただけたことでしょう。これらを管理する保護具着用管理責任者の役割は重要なものとなります。
保護具着用管理責任者の選任について
保護具着用管理責任者の選任要件
保護具着用管理責任者の選任が求められるのは以下の場合です。
- リスクアセスメント対象物を製造・取り扱う場合(安衛則第12条の6)
- 作業環境測定の評価が第三管理区分に区分された場合や、作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合。
- 特定化学物質や粉じんなどのリスクがある環境で作業を行う場合
また、これらの場合以外にも今後リスクアセスメント対象物となることが見込まれる化学物質(皮膚等障害化学物質等)を取り扱う場合に保護具を使用する場合には、保護具着用管理責任者を選任することが望ましいです。
つまり、これらの条件に該当する場合、事業所は14日以内に保護具着用管理責任者を選任する必要があります。
保護具着用管理責任者の資格要件
保護具着用管理責任者は保護具に関する知識や経験を持つ者から選任されます。具体的には以下の資格要件を満たす者です。
① 化学物質管理専門家の要件に該当する者
② 作業環境管理専門家の要件に該当する者
③ 労働衛生コンサルタント試験に合格した者
④ 第1種衛生管理者免許又は衛生工学衛生管理者免許を受けた者
⑤ 有機溶剤作業主任者技能講習、鉛作業主任者技能講習又は特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者技能講習の修了者
⑥ 安全衛生推進者に係る講習の修了者
⑦ 保護具の管理に関する教育を受講した者(①~⑥の該当者を選任できない場合)
①~⑥の該当者であっても、保護具の管理に関する教育を受講することが望ましいです。
保護具着用管理責任者の役割
化学物質管理者を選任した事業者は、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者を選任しなければなりません。
労働安全衛生規則において定められている保護具着用管理責任者の役割は主に以下の3つが挙げられます。
1.保護具の適正な選択
保護具着用管理責任者は、職場の業務内容や作業環境、リスクに応じた適切な保護具を選定します。必要に応じて、作業環境の環境測定なども行います。
2.労働者に保護具を適正に使用させる
適切な保護具を選択したとしても、正しく使わなければ保護具は効果を発揮しません。また、かえって事故の原因になる可能性すらあります。このため、保護具着用管理責任者は従業員に対して保護具の適正使用を徹底させなければなりません。保護具の使用マニュアルを作成する、保護具の着用方法や使用方法の講習を行う、フィットテストを行うといった方法が考えられます。
3.保護具の保守管理
保護具の状態を定期的に確認し、破損や劣化がないか点検します。必要に応じて修理や交換を手配し、安全な状態を維持します。また、個々で管理する場合には、保護具のメンテナンス方法についても従業員に指導します。保守管理マニュアルがあると良いでしょう。使用記録や管理記録の作成も大切です。
上記の3つ以外にも保護具着用管理責任者ができることはあります。
4.安全意識の向上と啓発活動
保護具の重要性を従業員に理解させ、安全意識を高めるための研修や啓発活動を行います。保護具着用の習慣化や、職場全体での安全意識の向上を図ることが重要です。保護具の着用は面倒だから、使用感が不快だからやらなくていいか、という意識をなくすことも事故を未然に防ぐ重要なポイントになります。
5.事故やトラブルの対応
万が一、保護具に関連したトラブルや事故が発生した場合、その対応を迅速に行います。問題が起きた場合には原因を特定し、再発防止策を講じる必要があります。
産業医と保護具着用管理責任者の協力の重要性
産業医と保護具着用管理責任者の協力は、職場における従業員の安全と健康を守るために極めて重要です。それぞれが担う役割は異なりますが、共通の目的である「職場の安全環境の確保」に向けて連携することで、労働災害や健康被害のリスクを大幅に減少させることができます。例えば、以下のようなことが挙げられます
従業員の健康状態のモニタリングと保護具の使用管理
産業医の役割:
定期的な健康診断や個別面談を通じて、従業員の健康状態をモニタリングし、業務が健康に及ぼす影響を把握します。例えば、呼吸器系のリスクが高い場合には、防塵マスクの使用が推奨されることがあります。
保護具着用管理責任者の役割:
保護具着用管理責任者は、産業医の提案に基づいて、従業員が適切な保護具を正しく着用しているかを日常的に監督します。
緊急時対応と事故防止
産業医の役割:
産業医は、職場での労働災害が発生した場合、適切な応急処置や医療対応などを行います。また、過去の事故データを分析し、事故を未然に防ぐための予防策を提案します。
保護具着用管理責任者の役割:
保護具着用管理責任者は、災害が発生した際に従業員が保護具を適切に使用していたかどうかを確認し、もし保護具の不使用が原因となっていた場合には、その原因を突き止め、再発防止策を実施します。
まとめ
この記事では、保護具着用管理責任者がどのような業務を行い、産業医とどのように協力するべきかについて解説しました。
保護具着用管理責任者の役割は、従業員の安全と健康を守るために非常に重要です。役割を果たすことで労働災害を未然に防ぐことが求められています。この記事を参考にこれからの業務に是非お役立てください。
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【参考文献】