この記事はこのような方に向けて書いています。
・産業医が予定通り働いてくれずに困っている人事・労務担当者の方
・産業医をこれから雇おうとしている人事・労務担当者の方
バス、タクシーなどの人を運ぶ旅客運送業では、長時間運転による過労、同じ姿勢を取り続けることによる腰痛、業務中の交通事故など多岐にわたる労働災害のリスクに直面しています。
産業医が企業と連携し、適切に労働環境を評価し、労働者の健康状態をモニタリングすること、そして医学的な視点で労働者の疲労を評価し、適切な作業スケジュールや休息時間の確保を提案することで防げる労働災害は数多くあります。
本記事では産業医選びでお悩みの人事・労務担当者に向けて産業医に対して何を求めるべきか、バス・タクシードライバーに最適な産業医とはどういうものか解説しています。また最後には記事のまとめとなるチェックリストも記載しています。
ぜひ、産業医を契約中の方はその産業医が本記事で解説した特徴を持っているか、産業医をこれから契約する方は産業医を選ぶにあたって何に注目すればいいのかをこの機会にご確認してみてはいかがでしょうか。
旅客運送業の労働災害
1.交通事故
東京都のハイヤー・タクシー業における労働災害は交通事故が半数以上を占めています。さらに、その60%は「追突され」によるものです。
「追突され」の事故は急発進・急停止・急ハンドルはしない、ウィンカーの合図は早めに出す、車線変更時は後方確認をきちんと行う、後方にも十分な車間距離を保つなどの防止に努めるほか、万が一追突されても被害を軽減するためにヘッドレストを適正な位置に調整しましょう。
(出典:(財)交通事故総合分析センター 発行「イタルダ・インフォメーション」No.66)
2.転倒災害
転倒災害は業種を問わずに発生していますが、旅客運送業では労働者に占める50歳以上の割合が高いことも影響して転倒した場合に骨折などによる休業日数が長くなりやすいです。また、頭部や頸部、腰部を負傷した場合には、死亡災害や後遺症が残る災害も発生しています。
転倒災害を予防するために、事務所や待機箇所などに、転倒のリスクのある場所がないかを点検し、発見した段差や障害物は早期に解消し、できない場合は危険性をわかりやすく表示しましょう(危険の見える化)。また、継続的な4S(整理・整頓・清掃・清潔)に努めましょう。梅雨の時期や冬季の積雪、路面凍結にも注意が必要です。
3.腰痛
トラック運転手は荷物の積み下ろしの作業中に腰を痛めた場合などの腰痛が「災害性の原因による腰痛」に分類されるのに対し、旅客運送業で長時間座っていることで引き起こされた場合の腰痛は「災害性の原因によらない腰痛」とされます。労災として認められるには労働期間、労働の負担などを基準として業務と腰痛の関連性を認められる必要があります。元から腰痛を持っている場合は業務との関連性が認められない可能性があるので注意が必要です。
労災として認められるか否かに関わらず、まずは腰痛にならないようにすることが大切です。こまめに腰の曲げ伸ばしなどの運動をするなど対策を取りましょう。
4.過重労働になりやすい
また、バス・タクシーなどの旅客運送業界の特徴として過重労働になりやすいというものがあります。
自動車運送業界には一般的な労働法とは別に「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が定められていますが、例えばバス運転手の場合一日の拘束時間の上限が15時間となっているようにルールとしてはかなり甘めです。にもかかわらず労働基準関係法令違反は多数報告されています。
厚生労働省は全国の労働局や労働基準監督署が、令和4年にトラック、バス、タクシーなどの自動車運転者を使用する事業場に対して行った監督指導や送検等の状況について取りまとめていますが、これによると監督指導を実施した3,785事業場のうち、労働基準関係法令違反が認められたのは3,142事業場(83.0%)、改善基準告示(※)違反が認められたのは、2,037事業場(53.8%)となっており、かなり高い割合であると言えます。
※「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号)
主な労働基準関係法令違反事項は、多い順に労働時間(47.6%)、割増賃金の支払(22.0%)、時間把握(9.2%)となっており、労働時間の違反の割合は前年度(45.1%)の報告よりもやや増加しています。このことからも、業界全体に労働法を軽視し、過重労働に目をつぶる風潮があると言えます。
ちなみに、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)は令和4年12月23日に改正され、令和6年4月1日から適用されます。
自動車運転の業務に年960時間の上限規制が適用されるほか、一日の休息時間は継続8時間から継続11時間を基本とし、最短でも継続9時間に変更されます。また、1か月の拘束時間も10時間ほど短縮されることになります。
バス・タクシードライバーの最適な産業医の3つの特徴
ここからはバス・タクシードライバーの理想の産業医の特徴について解説します。
1.企業文化をより理解しようとする
自動車運送業界の長時間労働、夜間労働、そして高い身体的及び精神的ストレスがある職場環境が多いという特徴は、従業員の健康に直接的な影響を及ぼします。以下に具体的な例を挙げます。
- 長時間労働と睡眠不足の問題:自動車運送業界では、長時間労働が常態化しており、これが睡眠不足や生活習慣病のリスクを高めています。産業医は、従業員の睡眠の質の向上や、適切な休憩時間の確保を推奨することが重要となります。
- 運転中のストレス: 長時間の運転は、ストレスを引き起こすことがあります。企業と協力して産業医は、労働者一人一人のメンタルヘルスのサポートやストレスマネジメントの方法を提供することができます。
- 身体的負担の軽減: 運転による身体的負担は、筋肉痛や関節痛などを引き起こす可能性があります。産業医は、運動プログラムや適切な体勢の指導を通じて、これらの負担を軽減することができます。
これらの対策を通じて、産業医は自動車運送業界の従業員の健康を守り、生産性の向上に貢献することができます。自動車運送業界特有の企業文化を理解し、それに基づいた健康管理策を講じることは、産業医の重要な役割の一つです。
2.労働安全衛生法やその他の産業保健法に関して知識がある
自動車運送業に関わる主要な法律は労働安全衛生法、道路交通法、労働基準法などがありますが、先ほども解説した通り、働き方改革により自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)が改正されるなど、法律は少しずつ変化します。
産業医は、これらの法律や改正などの情報に精通し、企業の状況に応じた具体的な提案とサポートを行うことが求められます。
自動車運送業界における産業医は「健康と安全」の相談相手という側面だけでなく、リスクアセスメントと対策のサポート役として重要な役割を果たしています。
3.迅速なレスポンスと緊急事態などにも対応して動ける
自動車運送業界では**、緊急時の迅速な対応が不可欠**です。
例えば、交通事故や運転中の健康問題など、重大な労働災害が発生した際、産業医は企業と協力し、事故予防措置や対策の実施、従業員の身体的・精神的サポートを行うことが重要になります。
また、違法行為による業務停止命令のリスクがある場合、産業医は長時間運転や夜間運転などのリスク評価を行い、労働者の健康状態を確認し、問題の未然防止に努める必要があります。
自動車運送業界における産業医は、健康管理の専門家であり、企業の安全文化の形成と維持に重要な役割を果たします。さらに、組織改革のサポートや予防的対策などにも貢献することができます。
まとめ:バス・タクシードライバーの理想の産業医について
バス・タクシードライバーの理想の産業医に関する記事はいかがでしたか?自社の産業医は、今回の記事で述べられたような特徴を備えていたでしょうか?
旅客運送業における産業医の役割は非常に広範で、企業の健康と安全の環境を向上させることが重要です。旅客運送業界特有のリスクを理解し、それに対応できる産業医を選択することは、リスクの低減はもちろん、従業員の質の向上や意識改革に繋がり、結果的には企業の生産性向上にも寄与します。
最後にバス・タクシードライバーの理想の産業医の特徴を簡単なチェックリストにまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
あなたの会社の産業医は大丈夫??旅客運送業の産業医チェックリスト
【必須条件】
□ 企業文化への理解 :企業の現状を理解し、適切なコミュニケーションがとれるか
□予防に対する意識が高いか:腰痛などの原因を取り除くことができないものへの対応ができるか
□ 知識や経験の有無 :労働安全衛生法などの法律や働き方改革などに精通しているか
□ 説明のわかりやすさ:専門用語ではなく従業員にわかりやすい用語を使えるか
□ 傾聴力:経験や知識だけを主張せず、会社の状況を踏まえながら一緒に考えてくれるか
□ 迅速な連絡対応:メールや電話は当日中か翌日には返事があるか
これらはバス・タクシードライバーの理想の産業医の条件の一例です。そして、この項目の中で最も大事になるのは、旅客運送業界特有の企業文化にあった提案をすることのできる産業医です。現在の産業医がこの条件を満たさない場合は、変更を検討する価値があるかもしれません。
「バス・タクシードライバーの理想の産業医」についての記事はいかがでしたか。
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【参考文献】
厚生労働省