人事労務担当者必見!労働災害の事例とは?~具体的なケースをもとに解説~

この記事はこのような方に向けて書いています。

・労働災害に遭った従業員を抱える企業ご担当者の方

・どのようなケースが労働災害に当たるのか知りたい方

労働災害として扱われる事例は多岐にわたります。一見業務に関連して害を被ったように思えても労働災害として認められないケースも存在します。この記事では何が労働災害として認められ、何が認められないのかを具体的な事例を用いて解説します。労働災害事案を抱えている方はご自分のケースがどれに当てはまるのかを考えつつお読みください。

目次

労働災害とは

そもそも労働災害とは何なのか今一度整理しましょう。

労働災害とは、業務が原因で労働者が負傷したり病気になったりすることを言います。略して労災とも呼ばれます。事故による身体的な怪我に加え、長時間労働やパワハラなどによるメンタルの不調や過労死なども該当します。労働災害が発生すると労働者に対し労災保険から補償が下ります。労働災害は以下の二つに大別されます。

1. 業務災害

業務が原因の労働災害を業務災害と言います。仕事中に機会に巻き込まれたことによる骨折、熱した金属に触れたことによる火傷などが挙げられます。

2.通勤災害

通勤が原因の労働災害を通勤災害と言います。通勤中に交通事故に巻き込まれたケースなどが該当します。会社に申請しているものとは違う通勤経路や通勤方法であっても、その経路や方法が通勤に利用するものとして合理的であれば、労災保険上の通勤と認められますが、通勤以外の目的であれば労働災害とは認められません。

労働災害の種類とその具体例

労働災害は病気の場合と怪我の場合、またそれらの原因ごとに分類できます。

1.怪我や死亡の場合

事故による負傷や死亡の労災では「業務遂行性」と「業務起因性」の2つを満たせば原則として労災が認定されます。この二つの要素は業務と負った怪我や病気との間の因果関係を示すものです。

・業務遂行性

業務遂行性とは、負傷や死亡等が業務中に発生したものであることです。

また、以下の場合も業務遂行性が認められることがあります。

  • 就業中でなくても、始業前、休憩中、終業後などに起きた社内での事故
  • 出張の際の移動中や宿泊場所での事故
  • 事業活動に密接に関連した歓送迎会、忘年会、運動会、社員旅行等

・業務起因性

業務起因性とは、業務が原因で負傷や死亡等が発生したものであることをいいます。

例:

ケース1

作業員2名がカゴ台車のフレームの上に、長さ約3mの荷(重量約500kg)を載せて構内を移動させていたところ、トラックに荷を積み込む際にカゴ台車が倒れた。このとき、フレームの上に載せていた荷が作業員の上に落ち、下敷きとなり死亡した。災害発生時には、カゴ台車のカゴの中に荷はなく、フレームの上に長尺で重い荷を載せているだけだった。

ケース2

エチレンプラントでの定期修理後、操業再開のため配管のフランジ部に入れていた遮蔽仕切り板を外していた際、上流側の空気圧作動弁が突然動作し、フランジの隙間から油が 6分で165トン漏れ、火災となった。当該フロアの4名のうちフランジの奥側にいた2名と階下で別作業をしていた2名が逃げ遅れて死亡した。分解炉は全焼し、12時間後に鎮火した。

ケース3

ファミリーレストランの厨房で、食器洗浄中に移動しようとしたところ、転倒した。発見時には、意識があり頭部からの出血はなく、頭と腰の痛みと耳の聞こえづらさを訴えていたが、その後、自ら車を運転して早退した。帰宅後に強い頭痛を訴えたため、家族が救急車を手配し、病院に搬送され手術も行われたが、翌日に死亡した。 給湯栓の閉め忘れにより、食器保温湯槽から湯があふれ、床端の排水溝で処理しきれず、床に水が広がったものの、別の作業者が給湯栓を閉めた際に、床がうっすら濡れていることも確認していたが、水溜まりの状態でもなくすぐに乾くと思い、拭き上げ等の措置はしていなかった。

ケース4

工場敷地内にある鉄鉱石等を船舶へ積み込むクレーンに設置されているロープ式エレベーターに乗り、地上に向け降下中、エレベーターのワイヤロープが破断し、搬器が約11 m落下した。被災者は両足を骨折した。

ケース5

グループホームの利用者を病院から送迎車で連れ帰る時、送迎車の後部から車椅子に乗った利用者を後ろから押して送迎車に乗せようとしたが、力を入れ過ぎて前に押したので車椅子が走りだしてしまった。慌てて車椅子の介助ブレーキを急に掛けたが、利用者が驚き被災者の左手を強く握り捻ったので、思わず手を離そうとした結果、車の窓ガラスに左手を強くぶつけた。その結果、左手打撲、左肘挫創、左尺骨神経損傷、左中指脱臼等の負傷をした。

2.うつ病や精神疾患などメンタルヘルスに不調をきたした場合

うつ病などメンタルヘルスの不調はパワハラや長時間労働が原因であることが多いです。

この時、労災が認定されるのは以下の3つの条件を満たした場合になります。

  1. 発症前おおむね6か月以内に業務による強いストレスを受けたこと
  2. うつ病やストレス反応など労災認定の対象となる精神疾患と診断されたこと
  3. 業務外のストレスや個体側要因により発症したとはいえないこと

例:

ケース1

デジタル通信関連会社に設計技師として勤務していた被災者は3年目にプロジェクトリーダーに昇格し、新たな分野の商品開発に従事することとなった。しかし、 同社にとって初めての技術が多く、設計は難航し、被災者の帰宅は翌日の午前2時頃に及ぶこともあり、以後、会社から特段の支援もないまま1か月当たりの時間外労働時間数は90~120時間で推移した。 新プロジェクトに従事してから約4か月後、抑うつ気分、食欲低下といった症状が生じ、心療内科を受診したところ「適応障害」と診断された。

ケース2

総合衣料販売店に営業職として勤務していたところ、異動して係長に昇格し、主に新規顧客の開拓などに従事することとなった。新部署の上司は被災者に対して連日のように叱責を繰り返し、その際には、「辞めてしまえ」、「死ね」といった発言や書類を投げつけるなどの行為を伴うことも度々あった。 係長に昇格してから3か月後、抑うつ気分、睡眠障害などの症状が生じ、精神科を受診したところ「うつ病」と診断された。

認められないケース

・離婚や家族の死亡などにより精神疾患を発症した場合

・精神疾患の既往歴がある場合

※つまり業務以外の原因で精神疾患を発症させるような事情があるということ

3.腰痛の場合

腰痛は以下の二つに分けて考えられます。

(1)突発的で急激な強い力が原因となって生じた腰痛

以下の2つの条件を満たした場合に労災が認定されます。

  1. 原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
  2. 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること

例:

ケース1

バスの運転手である被災者は、目的地に到着後、バスの荷物室から乗客の車椅子を取り出そうと無理な姿勢をとったところ、腰背部を痛めた。病院を受診したところ、筋膜性腰痛症と診断された。

ケース2

高齢者施設の居室において、入居者のベッドのシーツ交換を行っていた際に、シーツを伸ばすためベッドの奥に体勢を伸ばそうとしたところ、バランスを崩し、腰を痛めた。病院を受診したところ、急性腰痛症と診断された。

(2)日々の業務による腰への負荷が徐々に作用して発症した腰痛

突発的な急激な強い力が原因ではなく、日ごろから重いものを持ち運んだり屈伸運動が多いなどの腰に過度の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められると労災として認定されます。

例:

ケース1

浴室内で施設利用者の入浴介助を行っており、車椅子からチェア椅子へ、もう一人の介護者と共に移乗を介助していたところ、利用者の上半身を抱え上げた際、腰部に強い痛みを感じた。病院を受診したところ、急性腰痛症と診断された。普段から介護作業において、前屈み、中腰、腰を捻る(反らす)動作といった不自然な姿勢が繰り返されていた。

認められないケース

・ぎっくり腰
日常的な動作の中で生じるため、たとえ仕事中に発症したとしても、原則として労災補償の対象にはなりません。

4.脳・心臓疾患の場合

脳出血、脳梗塞、くも膜下出血等の脳疾患や、心筋梗塞、狭心症等の心臓疾患は、「業務による明らかな過重負荷によるもの」が発症の原因である場合に、労災として認定されます。

「業務による明らかな荷重負荷」とは、以下の3つのケースのことをいいます。

  1. 発症前の長期間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす時に過重な業務に就労した場合
  2. 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労した場合
  3. 発症直前から前日までの間において、精神的または身体的に強い負荷のかかる事態や急激な作業環境の変化等の異常な出来事に遭遇した場合

例:

ケース1

山の斜面に設置されている電気柵の撤去作業終了後、下山していた際に吹雪に巻き込まれた。積雪量が50~60cmとなったため、ラッセルしながら下山したが、体力の消耗が激しく、しばらくして心臓に持病があった作業者の体調が急に悪くなり、意識不明の状態に陥り、その後死亡した。

ケース2

スポーツセンターのプール等の給水弁取替え作業中に、給水管の中にたまっていた水が噴出して上半身のランニング、下の作業ズボンがずぶ濡れの状態になったが、鉄製のポンプ架台に腰掛けたまま古い給水弁スイッチ配線をペンチで切断したところ感電し、心停止した。

ケース3

日帰り温泉施設内に展示している岩風呂の遺構内に迷い込んだ猫を救出し、出入口に戻ろうとしたところ、急に苦しみだしてその場で倒れた。翌日に低酸素脳症により死亡した。
遺構内部の換気が不十分だったため、地表面から湧出した二酸化炭素の濃度が高くなり、酸素濃度が低くなっていた。

5.その他の病気の場合

上記のケースの他にも業務が原因で病気になる場合があり、これらも労働災害として認められるケースがあります。

ケース1

病院の排水処理装置の増設に伴う排水管の敷設工事中に痙攣を起こし汗をかいている状態で意識を失った。原因は熱中症であり、救急車で病院に移送されたが翌日死亡した。

ケース2

汚水処理施設のピット内において、浸出水バルブ槽に注ぎ込む水位調節用の自動弁が故障し、中央制御盤で自動弁を操作してみたが作動しなかったので手動で閉じようと地下ピットに作業したところ、硫化水素中毒になり死亡した。

6.労災が認められない場合

以下のようなケースでは業務や通勤に関連して怪我や病気になったとしても労災がおりないことがあります。

・自然災害によって被災した場合

・故意に災害を発生させた場合

・個人的な恨み等によって第三者から暴行を受けて被災した場合

・業務中に私用や業務とは無関係な行為をしたことによって事故が発生した場合

・休憩時間中や忘年会等で発生した場合

・通勤途中に私用で寄り道をした時に発生した場合
   →通勤の途中に寄り道をした時は、原則として「通勤」とは認められません。

・通勤途中で業務とは無関係に通り魔に遭った場合

まとめ

実際にあった労働災害の具体例を交えて労働災害の種類について解説しました。具体的な事例を見る方が想像がつきやすいかと思います。個々に労働災害の認定基準も存在するので先に挙げた事例はあくまで参考として、ご自身の抱えている労災案件については担当の産業医や社労士などにご相談ください。

ライフインベスターズでは、コミュニケーション能力や専門性など、書類や面接審査を通じて一定の基準を満たした厳選した産業医が所属しております。

大手法人様はもちろん、これから衛生委員会を立ち上げるスタートアップ・ベンチャー企業様への対応経験も豊富にございます。特にメンタル対応についてお困りの法人様から専門性の高さで高くご評価いただいておりますので、産業医の交代を含め、何かお困りやご不満がございましたら、無料のオンライン相談も受けつけておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。

【参考文献】

職場のあんぜんサイト:労働災害事例 (mhlw.go.jp)

001168576.pdf (mhlw.go.jp)

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