この記事はこのような方に向けて書いています。
・産業医が言うことを聞いてくれないと困っている企業ご担当者の方
・自社の産業医の中立性を疑っている企業ご担当者の方
産業医は労働者の健康と安全を守るための助言や指導を行うことが仕事であり、職務を全うする上で企業にも従業員にも肩入れせず、中立であることが求められています。この記事では産業医の中立性について解説しています。自社の産業医のあり方に疑問を持っている方はぜひ参考にしてみてください。
産業医とは
そもそも産業医の仕事とは何なのでしょうか。
産業医とは労働者の健康と安全を守るために専門的立場から指導・助言を行う医師のことです。具体的には健康診断の実施、ストレスを抱える労働者との面談、作業環境の管理、職場巡視などがあります。産業医は病院などに勤務する臨床医とは異なり、医師免許の所持の他にもいくつかの要件があります。
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産業医の中立性について
改正労働安全衛生法第13条第3項において、
産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
と規定されています。
働き方改革関連法により 2019年4月1日から
「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されましたが、この時、産業医の独立性・中立性の強化も行われています。
このように、産業医が中立であるべき、というのは産業医本人の認識の問題ではなく、ルールとして求められているものです。
なぜ中立ではないと思われるのか
中立でないと思われる産業医は以下の3つに分けられます。
労働者に肩入れしている場合
産業医の中には面談などで得た情報を本人の同意を得ようともせずに全く共有しないなど、従業員側に寄りすぎている人もいます。
特に、面談などで得た情報はプライバシーに配慮したうえで企業側にも共有しないと休職などの判断が正しくできません。個人情報の取り扱いについてはこの後詳しく説明します。また、従業員の状況に同情した結果客観的に誤った判断を下すケースもあります。例えば従業員の復職期限が迫り、体調が十分に回復していないのに復職希望が出されたときに医学的に正しい判断をせず、可哀想だからと復職可能という報告をしてしまうというケースです。
この状況で復職しても従業員は完全に回復することができず、企業側もパフォーマンスが上がらない従業員を抱えることになり、双方が不利益を被ります。このことからも産業医は中立的な立場で客観的な判断を下す必要があることが分かります。
企業側に肩入れしている場合
不正な解雇に加担したり、退職を強要したりする産業医がいるというのも否定できません。
民間企業は利益をあげて経営を続けなければなりません。そのため、やむを得ず人件費を削減することもあるでしょう。中小企業やベンチャーなど従業員が少ない企業は特にこのような状況下に置かれることが多々あります。ですが、これはあくまで企業側の都合であり、労働者を守るために法律で以下のように取り決められています。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法第16条
つまり、解雇を行う場合は、合理的な理由の元にきちんとした手続きを踏む必要があります。この過程で、精神疾患(例:うつ病、適応障害、自律神経失調症など)や身体疾患(例:脳卒中、心筋梗塞、潰瘍性大腸炎など)が関わった場合は産業医と連携して動くことになりますが、ここで産業医が従業員を解雇したい企業の言いなりになって解雇の理由をでっちあげる例もあるようです。
また、「病気があるからやめた方がいい」や「職場がもうあなたの席はないと言っている」と言って深い事情を理解しないままに退職を促してしまう産業医も一定数います。善意で言っていることもありますが退職の強要は違法になります。
守秘義務・報告義務に対する認識が甘い場合
守秘義務・報告義務に対する認識が甘く、守秘すべき情報まで企業側に開示していると、労働者側から見れば産業医は企業側に肩入れしていて信用できないと思われてしまいます。
産業医面談など、産業医の職務を行う上で知り得た労働者に関する情報は正当な理由なく漏らしてはならないと労働安全衛生法第105条や刑法134条で定められています。
(健康診断等に関する秘密の保持)
労働安全衛生法 第百五条
第六十五条の二第一項及び第六十六条第一項から第四項までの規定による健康診断、第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項の規定による面接指導、第六十六条の十第一項の規定による検査又は同条第三項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。
(秘密漏示)
刑法第百三十四条
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
本人の同意なく報告することができる正当な理由は
- 法令に基づく場合
- 第三者の利益を保護するために秘密を開示する場合
- 患者や他の者に対して現実に差し迫って危害が及ぶおそれがあり、守秘義務に違反しなければその危険を回避することができない場合
などです。
具体的には、
- 労働者に自殺のリスクがある時
- 就業制限が必要とされる感染症や伝染病にかかり、周囲に感染させる可能性がある時
- 現状の労働環境のまま働かせると病状が悪化する恐れがある場合
などです。
正当な理由があっても労働者本人の感情は別であり、トラブルに発展しかねないので、情報を開示する際にはできるだけ同意を得る、開示後に理由を丁寧に説明する等のアフターフォローをするなど慎重に対応した方が良いです。
中立の立場でない産業医の対応法
まずは改善を促す
自社の産業医が中立でないと感じたら、まずは改善を促しましょう。産業医本人に言いにくいのであれば、産業医紹介時の仲介人がいる場合はその仲介人・会社に相談してください。
従業員の感受性が高く、産業医は適切な意見を言っているのに従業員が自分を否定された!と思い込んで産業医の中立性を疑い、従業員から苦情が出ている場合もありますので、客観的な視点で調査して、どこに問題があるのかを明確にした上で産業医側の問題であると判断した場合は改善を促しましょう。
改善されない場合は変更を検討する
問題が改善されず、業務に支障をきたすと判断した場合は産業医の変更を検討してください。産業医の選任義務がある場合、産業医のいない期間が生じると法令違反になりますので、後任の産業医を見つけた後に解任の申し入れを行います。産業医紹介サービスを利用すれば、より求める条件に合った産業医の紹介を受けることができます。
まとめ
中立性が求められる産業医において中立性を欠いているのは産業医が労働衛生の知識を十分に持ち合わせていないのと同じくらい良くないことです。場合によっては知らず知らずのうちに法律に違反していたり従業員から訴えられたりする可能性もあります。自社の産業医が中立性が保てていないのではないかと感じたら改善を促す、変更を検討するなど速やかに対処することをお勧めします。
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【参考文献】
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057_20220617_504AC0000000068&keyword=労働安全衛生