この記事はこのような方に向けて書いています。
・企業がハラスメント相談窓口を設置する義務についての詳細な法規情報を知りたい方
・相談窓口の適切な運用方法や、対応すべき体制の整備に関する情報を探している方
ハラスメントは、職場環境や従業員の健康に深刻な影響を与える問題として、近年ますます注目を集めています。企業にはハラスメント防止のための対策が求められており、その一環として「ハラスメント相談窓口」の設置が義務付けられています。窓口は、従業員が安心して相談できる場であり、適切に機能することで、ハラスメントの早期発見や対応に繋がります。しかし、窓口の設置や運用にはさまざまな注意点があり、それを踏まえて運用しないと、十分な効果を発揮できないことがあります。本記事では、ハラスメント窓口の設置と運用における注意点について詳しく解説し、効果的なハラスメント対策を行うためのポイントをご紹介します。
ハラスメント窓口とは?
厚生労働省が定めた「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」によると、事業主には以下の対応が求められています。
事業主は、労働者からの相談に対し、その内容や状況に応じ適切かつ柔軟に対応するために必要な体制の整備として、次の措置を講じなければならない。
イ 相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」という。)をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
引用:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
また、労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」(通称ハラスメント防止法)においても同様の内容が明記されています。
ハラスメント窓口を設置するうえでの注意点
ハラスメント相談窓口を問題発生時に確実に機能させるため、先述の厚生労働省の指針で「相談窓口をあらかじめ定めている」と認められるのは
① 相談に対応する担当者をあらかじめ定めること。
② 相談に対応するための制度を設けること。
③ 外部の機関に相談への対応を委託すること。
と定められています。
また、これらの体制が整っていても、担当者が適切に対応できなければ効果は半減します。そのため、同指針では次の措置も求められています。
① 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、その内容や状況に応じて、相談窓口の担当者と人事部門とが連携を図ることができる仕組みとすること。
② 相談窓口の担当者が相談を受けた場合、あらかじめ作成した留意点などを記載したマニュアルに基づき対応すること。
③ 相談窓口の担当者に対し、相談を受けた場合の対応についての研修を行うこと。
さらに、窓口が設置されていても、必要な時に従業員がきちんとアクセスできるようでなければなりませんから、設置時だけでなく、定期的に相談窓口の存在を労働者に周知することが求められています。
ちなみに、2022年4月までは努力義務だった中小企業も、現在では大企業と同じようにハラスメント窓口の設置は義務化されています。すべての事業所が対象となっているので、注意しましょう。
ハラスメント窓口を運用するうえでの注意点
ハラスメント窓口を実際に運用するうえで、いくつか注意点があります。
1.幅広く相談を受け付けること
相談窓口では、被害を受けた従業員が萎縮し、相談をためらうことが少なくありません。これを踏まえ、相談者の心身の状況や問題となる言動の受け止め方にも十分配慮し、以下のようなケースに幅広く対応しましょう。
- 職場におけるハラスメントが現実に生じている場合
- ハラスメント発生のおそれがある場合(放置すれば就業環境を害するおそれがある場合)
- 職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か判断が難しい場合
これら全ての相談に対応し、適切な対応を行うようにしましょう。
また、相談方法は面談だけでなく、電話やメールなど複数の手段を設け、相談者が利用しやすい環境を整える工夫も重要です。
2.プライバシー保護と相談者の安心確保
相談者のプライバシー保護は当然の義務です。相談内容を、相談者の許可なく加害者や上司に伝えることは厳禁です。多くの被害者は、内容が外部に漏れることを恐れて相談をためらうため、この問題には特に注意が必要です。実際に以下のような事例があり、企業のリスク管理としても慎重な対応が求められます。
- セクハラの相談内容を漏洩したことについて損害賠償が命じられた事例(東京地方裁判所平成26年4月14日判決)
- セクハラの相談内容について被害者の承諾を得ずに加害者に伝えて加害者から事情聴取を行ったことについて損害賠償が命じられた事例(大阪地方裁判所平成16年9月3日判決)
また、相談者に対して、相談内容の秘密が守られること、相談したことによって不利益な扱いを受けることがないことを明確に伝えることで相談者が安心して相談できる環境を作り、信頼関係を構築することができるようになります。
3.自分で判断しないこと
窓口担当者は事前に定められたマニュアルに従って対応する必要があります。これは相談時に感情を無にして対応しろということではありません。窓口担当者が「あなたにも落ち度があるのではないか」とか「それは考えすぎではないか」などと発言すると、ハラスメントの問題が解決するどころか新たなトラブルに発展する可能性があります。
ハラスメントの有無や相談者が訴える内容の正当性など、窓口担当者個人の判断を伝えることはせず、相談時にはあくまで相談者の話を聴くに留めましょう。
4.事実関係を聞き取ること
ハラスメントは相談することも相談者のストレスになりえますから、少ない回数で今後対策を講じる上で必要な情報を得る必要があります。聞き取るべき内容としては以下のようなものがあります。
- 相談者がいつ誰からどのようなハラスメントを受けたと主張しているのか
- ハラスメントに至る経緯
- 相談者と加害者とされる従業員との関係
- 相談者は被害を受けた後に加害者に対してどのような対応をしたか
- 相談者はハラスメントについて上司らへの相談をしたか
- ハラスメントについての目撃者の有無
- メールやLINEなどのメッセージでハラスメントを確認できるものが残っているか
5.相談者へ定期的に報告をすること
ハラスメントの問題に対して対策をする上で窓口担当者が関わるのは一部分にすぎません。実際に対策に動いているとしても、報告がなければ相談者は現在の状況が分からず、相談したのに会社は何も動いてくれないと勘違いしてしまう可能性があります。窓口から、定期的に相談者へ対応状況を説明すると良いでしょう。
参考:ハラスメントの対応の流れ
相談者からのヒアリング@相談窓口
↓
事実関係の調査(加害者からのヒアリング、目撃者からのヒアリング、加害者と相談者の間のメールやLINEのやりとりを確認、必要に応じて再度双方からヒアリング)
↓
ハラスメントの有無について判断
↓
対応策の検討(加害者に対して懲戒処分・指導・人事異動などが必要かどうか、相談者に対しても指導が必要かどうかetc.)
↓
相談者、加害者への説明 懲戒処分、指導、人事異動などの実施
↓
再発防止策の実施
基本的に窓口相談者が関わるのはヒアリング部分だけで、ハラスメントの有無の判断、懲戒や人事異動などの対応は、別の担当者が行うことが通常です。
まとめ
ハラスメント相談窓口は、企業が職場環境を守り、従業員の安全を確保するために重要な役割を果たします。適切な設置と運用によって、ハラスメントの早期発見や対応が可能になり、従業員が安心して働ける環境を提供できますが、窓口が効果的に機能するためには、企業全体での意識向上と体制整備が必要です。継続的な見直しを行いながら、ハラスメント防止に向けた取り組みを進めることが、健全な職場づくりに繋がります。また、ハラスメント窓口の適切な運用のため、産業医によるサポートも有効です。
産業医は、ハラスメントが従業員の心身に与える影響を専門的に理解しており、従業員のメンタルヘルスをサポートしながら、相談対応の際に適切なアドバイスやサポートを提供できます。ハラスメント窓口を適切に運営し、必要に応じて産業医を利用することで健全な職場環境の維持に努めましょう。
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【参考文献】
ハラスメント相談窓口が義務化!おさえておきたい4つのポイント – 咲くやこの花法律事務所 (kigyobengo.com)