この記事はこのような方に向けて書いています。
・産業医が予定通り働いてくれずに困っている人事・労務担当者の方
・産業医をこれから雇おうとしている人事・労務担当者の方
産業医と契約するにあたりどのような点に注意すればよいのか悩んでいませんか?
工場は労働災害が起きやすい環境です。生産している製品によっては工場内で大きな騒音や化学物質、放射線が生じることがあり、このような環境での業務を「有害業務」と呼びますが、このような作業環境の現場を担当したことがない産業医はどういった対応が重要なのか判断ができず、適切な対応を取れないこともしばしばあります。これにより、工場を有する企業では「有害業務」への適切な対処法ができる産業医を見つけることに苦労するケースも多いです。
今回、自社にあった産業医選びにお困りの人事・労務担当者向けに、工場を有する企業がどのような産業医と契約すべきなのかについての記事を作成しました。また最後には、簡単な工場に向いている産業医を見分けるためのチェックリストも記載しています。
是非、産業医を契約中の方は自社の産業医が本記事で解説した特徴を持っているか、産業医をこれから雇うことを考えている方は産業医を選ぶにあたって何に注目すればいいのかをぜひこの機会にご確認してみてください。
工場における労働災害
一口に工場と言っても生産する製品の種類はその企業ごとに異なります。工場をもつ企業の業種は製造業に分類されますが、製造業は、さらに自動車産業、化学工業、電子機器産業、食品産業、重工業、鉄鋼業、繊維産業、医薬品産業など幅広い分野に分類されます。
これらに共通しているのが、作業内容に「有害業務」を伴うことです。「有害業務」とは大きな騒音や化学物質、放射線が生じる環境での業務を指します。
たとえば、製品を作る過程では、様々な化学物質が使われます。これには、毒性があるものや、燃えやすいものなど、扱いに注意が必要なものも含まれます。これらの化学物質に誤って触れたり、空気中に放出されたものを吸い込んだりすると、健康に害を及ぼすことがあります。また、製品の原料としてだけでなく、製造工程で一時的に使われた後に取り除かれる化学物質もあります。これらの化学物質が原因で、労働者がけがをしたり健康に問題が生じたりすることもあります。
放射線が人体に悪影響を及ぼすというのは何となく想像がつくかと思いますが、騒音、温度、湿度、寒冷ストレス、熱ストレスなども健康被害の原因になることがあります。
実際の労働災害の例
労働災害の具体的な事例として、以下の二つが挙げられます。
- 火傷・跳ね飛ばされて負傷:タイヤ製造用の熱加硫圧縮成形機の異常個所を点検している際にタイヤ内側の金属製リングの固定金具が外れて高圧熱水が吹き出し、作業者に降り掛かるとともに、タイヤが急激に膨張して上方に持ち上がり、その反動で跳ね飛ばされ、火傷や衝突による負傷を負いました。
- ガス爆発:製鉄所内で燃料ガスの配管交換後、配管の一部のバルブを閉め忘れていたこと、可燃性ガスを扱う環境で溶接を行っていたことなど様々な要因が重なった結果、可燃性ガスが爆発し、可燃炉の上部がもぎ取れて約20m吹き飛び、多数の破片が周辺に飛散しました。負傷者も出ました。
工場に必要な産業医の5つの特徴
1.企業文化をより深く理解しようとする
「あの産業医はうちの会社のことを全く理解していない」という不満を抱えたことはありませんか?
たとえば、医薬品製造業や食品製造業では消費者の口に入る製品を製造しているため、他の製造業に比べてさらに製品や製造工場内の清潔の確保に対する意識が高いという特徴があります。精密機器の製造工場では、わずかな差が製品の動作に影響するため、より緻密な作業を求められます。このように、同じように工場を有する会社であっても業種によって特徴は異なります。
また、企業によっては予算の制約により、最新の設備投資に踏み切ることが難しいこともあるなど、同じ業種でも会社ごとに抱える問題は異なります。産業医には、企業文化を深く理解し、限られたリソースの中で何を最優先で実行すべきかを判断することが求められます。
したがって、単に知識が豊富な産業医ではなく、企業の具体的な文化や状況に合わせて適切な提案ができる産業医が大切になります。
2.化学物質や製造業特有の法律に関する知識がある
「化学物質の規制が来年から変わるらしい」や「新たな化学物質が法律の規制に加わったらしい」といったニュースを耳にした方もいらっしゃるかもしれません。
製造業に関係する法改正は毎年度、起きており、これに対して企業は柔軟に対応することが求められています。
例えば、製造業に関係する法律は、以下のようなものがあります。
・労働安全衛生法(通称:安衛法)
・安全衛生規則
・有機溶剤予防規則(通称:有機則)
・特定化学物質予防規則(通称:特化則)
・高気圧障害予防規則(通称:高圧則)
・酸素欠乏防止規則(通称:酸欠則)
・粉塵障害防止規則(通称:粉じん則)
・石綿障害予防規則(通称:石綿則)
・鉛中毒予防規則(通称:鉛則)
・事務所衛生基準規則
・労働基準法や労働契約法などの労働に関する法律
最近では「化学物質のリスクアセスメントに関する法律」が改正され、国が企業に求める安全対策のレベルは日に日に増しています。
産業医は都度変化する法律に適応でき、企業に対してその時必要な知識を提供できることが求められていると言えるでしょう。
3.レスポンスが速く、迅速な対応が取れる
もし違法行為などにより国から稼働停止を命じられた場合、企業は莫大な損失を被る可能性があります。そのため、工場を担当する産業医はリスクアセスメントを積極的に行い、問題を未然に防ぐことが必要不可欠になります。もし問題が表面化した場合には、担当する企業と協力して迅速に状況を悪化させないための対策を講ずることが求められます。
さらに、化学物質への接触や爆発事故への巻き込まれなど重大な労働災害が発生した場合、労働者本人に対する対応や事故の予防措置などを行う必要があります。事故に遭った労働者本人の身体的、精神的なサポートだけでなく、周囲の従業員のメンタルヘルスのサポートも産業医の仕事の一つです。
4.大規模工場の産業医を経験したことがある
大規模な工場では大型の機械をたくさん導入していることが多く、数も多いのでその分業務上災害が起きやすくなります。機械を伴う業務では業務上災害が起きやすいという事実は厚生労働省のデータでも示されています。
そのために大規模工場で勤務経験を持つ産業医は、製造現場特有の課題やリスクをより深く理解しており、不測の事態に迅速かつ適切に対応できると言えます。
5.海外の法律や文化に適応できる
近年アジアやアフリカをはじめとした海外諸国に工場や支社を置く企業が増加しています。海外で製造を行う場合は日本の法律や基準だけでなく、現地の法律や基準に従う必要があります。
さらに、海外に駐在する日本人駐在員は慣れない海外での業務に精神的・身体的負担を感じることも多く、彼らをサポートする産業医は、これらの従業員が健康かつ安全に業務を遂行できるよう、心理的サポートや健康管理の面でも積極的な役割を果たす必要があります。
海外市場への展開に伴い、産業医は単に医学的な知識だけでなく、異文化への理解と柔軟な対応力を持つことが不可欠です。現地の文化や習慣、法律に適応し、多様な労働環境において従業員の健康と安全を守ることが、産業医の重要な任務となります。
総括:工場に向いている産業医
ここまで工場における労働災害とそこに必要な産業医の特徴について解説してきましたが、自社の産業医はいかがでしたでしょうか。
工場における産業医の役割は多岐に渡り、企業の健康と安全の環境を向上させるために重要となります。そして、企業にマッチした産業医を選ぶ事ができると、労働災害のリスクを低減させることだけでなく、労働環境の質の向上と従業員の意識改革につながり、結果的に企業の生産性の向上にも寄与するのです。
企業が産業医を選ぶ際には、その経験、知識、技術、およびコミュニケーション能力を総合的に評価していくことが重要です。今回挙げた特徴も有効活用して企業にあった産業医を選定できれば幸いです。
最後に、工場を有する企業が採用すべき産業医の基準をチェックリストにまとめました。
あなたの会社の産業医は大丈夫??工場に向いている産業医チェックリスト
【必須条件】
□ 企業文化への理解 :企業の現状を理解し、適切なコミュニケーションがとれるか
□ 知識や経験の有無 :法律や危険物の管理などに精通しているか
□ 説明のわかりやすさ:専門用語ではなく従業員にわかりやすい用語を使えるか
□ 傾聴力:経験や知識だけを主張せず、会社の状況を踏まえながら一緒に考えてくれるか
□ 迅速な連絡対応:メールや電話は当日中か翌日には返事があるか
【副次条件】
□ 工場での勤務歴:大規模工場でのリスクアセスメントの経験の有無
□ 海外展開する企業での勤務歴:企業と相談して臨機応変に対応できるか
これらは工場を有する会社が雇うべき産業医の条件の一例です。そして、この項目の中で、特に大事になることは”企業文化にあった提案をすることのできる産業医”です。現在の産業医がこの条件を満たさない場合は、変更を検討する価値があるかもしれません。
「工場に向いている産業医」についての記事はいかかでしたでしょうか?
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