この記事はこのようなお悩みをお持ちの方に向けて書いています。
・産業医は選任しているが、実態としてほとんど機能していないと感じている
・産業医が形骸化している場合、企業にどんなリスクがあるのか知りたい
・産業医を適切に活用できる体制をどう整えればよいかわからない
「産業医は一応いる。でも、月1回来てハンコを押して帰るだけ。」
「ストレスチェックの実施者にはなってもらっているが、高ストレス者への面談はほとんど行われていない。」
こうした状況は、中小企業の人事担当者からよく聞かれる声です。「産業医を選任してさえいれば義務は果たせている」と思っている担当者も多いですが、実はそれだけでは不十分です。
産業医が名目だけの存在になっている状態は、法的リスクはもちろん、従業員の健康管理や組織の生産性にも深刻な影響を与えます。
この記事では、産業医が機能していない場合に企業が直面するリスクと、その状態から抜け出すための具体的な対処法を解説します。
そもそも産業医に求められている役割とは
産業医の機能不全を理解するためには、まず産業医が本来果たすべき役割を押さえておく必要があります。
労働安全衛生法では、産業医は以下のような業務を担うことが定められています。
- 健康診断の実施・結果に基づく就業上の措置
- 長時間労働者への面接指導
- ストレスチェックの実施と高ストレス者への面接指導
- 職場巡視による作業環境・衛生状態の確認
- 衛生委員会への参加と意見提示
- メンタルヘルス不調者への対応・復職支援
これらはいずれも「実施していること」が求められる業務です。選任しているだけで実態が伴っていなければ、法の趣旨に反する状態になります。
機能していない産業医とはどんな状態か

産業医が機能していない状態は、大きく3つのパターンに分類できます。
パターン① 訪問はしているが業務が形式的
月1回の訪問はあるものの、職場巡視は数分で終わり、衛生委員会でも発言がほとんどない。健康診断の結果も「確認しました」で終わり、具体的な意見書や就業上の措置につながっていない状態です。
パターン② 面談が機能していない
高ストレス者への面接指導が実施されていない、または実施されていても内容が薄く従業員の信頼を得られていない状態です。「産業医に話しても意味がない」という認識が従業員に広がると、メンタルヘルス対策全体が機能不全に陥ります。
パターン③ 人事・衛生管理者との連携がない
面談後のフィードバックがなく、就業上の配慮が必要な従業員の情報が人事に届かない状態です。産業医と人事が別々に動いている状態では、従業員への適切な対応が遅れます。
産業医が機能していない場合の企業リスク
産業医が形骸化している状態を放置すると、企業は以下のような深刻なリスクを抱えることになります。
リスク① 安全配慮義務違反による損害賠償
企業には労働契約法第5条に基づき、従業員が安全に働けるよう配慮する安全配慮義務があります。産業医が機能していない状態でメンタル不調や過労による健康被害が発生した場合、「産業医を選任していた」という事実だけでは企業の責任を免れることができません。
過去の裁判例では、産業医が選任されていても適切な面接指導や就業上の措置が行われていなかった事例で、企業の安全配慮義務違反が認められたケースがあります。損害賠償額は事案によっては数千万円規模に達することもあり、企業経営に直接影響します。
リスク② 労働基準監督署による是正指導
労働基準監督署の調査において、産業医の職務が適切に実施されていないことが判明した場合、是正勧告の対象となります。調査で確認されやすい主な項目は以下の通りです。
- ストレスチェックの実施状況と高ストレス者への面接指導の実施記録
- 長時間労働者への面接指導の実施記録
- 職場巡視の頻度と記録(原則月1回以上)
- 衛生委員会の議事録における産業医の発言・意見の記載
記録が残っていない、または実施されていない場合は是正指導の対象になり得ます。繰り返し指導を受けると、企業名が公表されるリスクも生じます。
リスク③ 休職・離職の増加による組織的損失
産業医が機能していない職場では、メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応が遅れます。軽度の不調が重症化して長期休職につながるケースが増え、以下のような組織的コストが発生します。
- 休職者の代替要員確保・業務再配分のコスト
- 休職給付や傷病手当金に関わる対応コスト
- 職場全体の士気低下・残存メンバーへの負荷増大
- 離職による採用・育成コストの再発生
厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.2%にのぼります。1人の長期休職が職場全体に与える影響は決して小さくありません。
リスク④ 名義貸しと判断された場合の罰則
産業医が実態として業務を行っていない場合、最悪のケースでは「名義貸し」と判断されるリスクがあります。名義貸しとは、産業医資格を持つ医師が実際の業務を行わないまま名義だけを貸している状態を指します。
名義貸しが発覚した場合、事業者側には労働安全衛生法違反として50万円以下の罰金が科される可能性があります。形式的に選任しているという状態がこのリスクに直結することを、人事担当者は認識しておく必要があります。
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産業医が機能しない原因はどこにあるか
産業医が機能していない状態には、産業医側の問題だけでなく、企業側の体制や関わり方に原因があるケースも少なくありません。よくある原因を3つ整理します。
原因① 企業側が産業医に何も求めていない
「来てもらってサインをもらえればいい」という意識が企業側にある場合、産業医も積極的に動く機会がありません。産業医が本来の機能を発揮するには、企業側からの適切な情報提供と課題の共有が前提になります。
原因② 衛生管理者・人事担当者と産業医の連携がない
嘱託産業医の訪問は月1回程度が大半です。訪問時間が限られているからこそ、事前に人事や衛生管理者が今月対応が必要な従業員のリストや職場の課題などを整理して共有する仕組みが必要です。この仕組みがないと、訪問のたびにゼロから状況を把握する非効率な状態が続きます。
原因③ 産業医の専門性と自社ニーズがずれている
内科系専門の産業医がメンタルヘルス対応を求められても、得意分野ではないため深い関与が難しいケースがあります。コミュニケーションスタイルが職場の雰囲気と合わず、従業員が話しかけづらい状況になっていることもあります。
産業医を機能させるための具体的な対処法
現状を変えるために、人事担当者が取れる具体的なアクションを4つ紹介します。
対処法① 産業医との事前打ち合わせを仕組み化する
訪問前に15〜30分程度の事前連絡や打ち合わせの時間を設けましょう。その月に対応が必要な案件・確認してほしい従業員・職場の変化などを共有する仕組みを作ることで、産業医の動き方が大きく変わります。
対処法② 面談後のフィードバックを義務化する
面談終了後に産業医から「就業上の配慮が必要かどうか」「次回フォローが必要かどうか」を必ず報告してもらうルールを設けましょう。口頭でも構いませんが、簡単なフォーマットを用意しておくと記録として残せます。
対処法③ 衛生委員会での役割を明確にする
衛生委員会において産業医に発言・意見提示を求める議題をあらかじめ設定しておきましょう。今月の職場巡視での気づき、高ストレス者の傾向に関するコメントなどを毎回の議題として組み込むことで、産業医が主体的に関与する場を作れます。
対処法④ それでも改善しない場合は産業医の変更を検討する
仕組みを整えても産業医の関与度が変わらない場合は、産業医自体の変更を検討する段階です。変更手順については、当ブログの以下の記事で詳しく解説しています。
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まとめ
産業医を選任しているだけの状態は、法的にも組織的にも大きなリスクをはらんでいます。ポイントを整理します。
- 産業医が機能していない状態には①形式的訪問、②面談不全、③連携不足の3パターンがある
- 機能不全のまま放置すると、安全配慮義務違反・労基署の是正指導・休職増加・名義貸しリスクに直結する
- 機能しない原因は産業医側だけでなく、企業側の関わり方にあるケースも多い
- まずは事前共有の仕組み化、面談後フィードバックの義務化、衛生委員会での役割明確化から着手する
- それでも改善しない場合は産業医の変更を検討する
「うちの産業医、ちゃんと機能しているのだろうか?」と感じた今がまさに見直しのタイミングです。ぜひこの記事を参考に、現状の体制を点検してみてください。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況については産業医や専門家にご相談ください。法令の改正により内容が変わる場合があります。

