この記事はこのような方に向けて書いています。
・メンタル不調による休職者への対応に悩んでいる人事労務担当者の方
・復職支援制度を整えるにあたって関連する法令を知っておきたい方
近年、うつ病や適応障害などの「メンタル不調」によって休職する従業員が増えています。
職場におけるストレスや人間関係のトラブル、業務負荷などが原因で、心身のバランスを崩すケースが後を絶ちません。
メンタルヘルスの問題は、本人だけでなく企業にとっても重大な課題です。対応を誤れば、職場の混乱や法的リスクに発展することもあります。
そこで本記事では、企業が押さえておくべき法令のポイントについて解説します。
人事担当者が知っておくべき法令のポイント
労働衛生に関する法律はたくさんありますが、ここではメンタル不調者の対応に関連するものを中心に解説します。
労働契約法第5条「安全配慮義務」
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
使用者(企業)は、労働者が安全・健康に働けるように配慮する義務があります。
メンタルヘルス不調に対して適切な対応をしなかった場合、損害賠償請求の対象となる可能性があります。
労働安全衛生法第66条の10「ストレスチェック制度」
(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
メンタル不調の予防・早期発見、職場環境の改善を目的として、企業は従業員の心の健康状態を把握するため、医師や保健師などによるストレスチェックを行うことが義務付けられています。
ストレスチェックを受けた従業員には、医師などから直接その結果を通知する必要があり、この結果は、本人の同意がない限り、会社に提供してはいけません。
また、検査結果が一定の基準(高ストレス)に該当し、かつ本人が希望した場合、会社は医師による面接指導を実施しなければなりません。実施した面接指導の内容・結果は、会社が記録として残しておきます。
この結果をふまえて、従業員の健康を守るために必要な措置について、会社は医師の意見を聞く必要があります。
医師の意見を考慮し、必要と判断した場合は、就業場所や業務内容の変更、労働時間の短縮、夜勤の回数の削減などの対応を行います。
労働基準法第75条~第79条「休職・休業中の賃金に関する規定」
解雇制限や労働時間・休憩・休日に関する基準です。
(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
(休業補償)
第七十六条 労働者が前条の規定による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の百分の六十の休業補償を行わなければならない。
(障害補償)
第七十七条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治つた場合において、その身体に障害が存するときは、使用者は、その障害の程度に応じて、平均賃金に別表第二に定める日数を乗じて得た金額の障害補償を行わなければならない。
(休業補償及び障害補償の例外)
第七十八条 労働者が重大な過失によつて業務上負傷し、又は疾病にかかり、且つ使用者がその過失について行政官庁の認定を受けた場合においては、休業補償又は障害補償を行わなくてもよい。
(遺族補償)
第七十九条 労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の千日分の遺族補償を行わなければならない。
①療養補償
労働者が業務によってケガや病気になったとき、企業は必要な治療を会社の負担で提供する、または費用を負担する義務があります。
②休業補償
上記のケガや病気で働けず、賃金が出ないとき、企業は療養中の労働者に平均賃金の60%を補償しなければなりません。同じ事業所の平均賃金が大きく上下した場合(±20%以上)、企業は2四半期後から休業補償額を調整する必要があります。
③障害補償
治療後も身体に障害が残ったとき、障害の重さに応じて、平均賃金×日数(別表で規定)の金額を補償する義務があります。ただし、労働者が故意や飲酒運転など本人の過失によってケガや病気になった場合に行政官庁の認定があるときに限り、企業は休業補償・障害補償を免除されることがあります。
④遺族補償
労働者が業務上の事故や病気で死亡した場合、企業は遺族に対して平均賃金の1,000日分の補償金を支払わなければなりません。
障害者総合支援法
障害者総合支援法とは、障害のある人が地域で自立して生活できるよう支援するための法律です。うつ病や適応障害などのメンタル不調が長期化し、精神障害と診断される場合、この法律の支援対象になる可能性があります。
復職後も就労継続が難しいケースでは、外部支援(就労移行支援など)と連携することが効果的です。社内だけで抱え込まず、地域の福祉資源と連携する視点をもちましょう。
障害者雇用促進法
障害者雇用促進法とは、障害のある人が働く機会を確保し、職場での安定した就労を支援するための法律です。企業に対して、障害者の雇用義務や職場での配慮(合理的配慮)を求めています。
うつ病や双極性障害、不安障害などのメンタル疾患が長期化し、日常生活や就労に支障をきたしている場合、「精神障害者保健福祉手帳」を取得できることがあります。
この手帳を持つと、その方は障害者雇用の対象者になります。
精神疾患を抱える労働者に対しては、復職後も勤務時間の調整・業務内容の変更などの適切な配慮を行うことが求められます。
また、この法律は復職支援にも関わっています。
- 復職後、再発防止のために合理的配慮を行う
- 配慮が継続的に必要な場合、障害者雇用枠への転換を検討する
- ハローワークや地域障害者職業センターと連携し、職場定着を支援する
このように、復職支援と障害者雇用を一つの支援体制として考えることが大切です。
労働審判法・民法(損害賠償責任)
メンタル不調をめぐる以下のようなケースで、労働審判が申し立てられることがあります。
- パワハラ・長時間労働などでうつ病になった
- 適切な配慮を受けられずメンタル不調が悪化した
- 不当な休職・解雇を受けた
- 復職希望が無視された/復職先が不適切だった
このような場合、労働者が慰謝料や損害賠償を求めて申し立てることがあり、企業にとっては重大な法的リスクとなります。
精神的損害や逸失利益の賠償が認められる判例も増えています。
産業医との連携による支援体制の構築
産業医は、メンタル不調者への復職支援において欠かせない存在です。本人の健康状態や職場環境を踏まえた専門的な意見をもとに、無理のない復帰プランを設計することができます。
また、復職後も定期的な面談を通じてフォローを行うことで、再発予防につながります。人事担当者だけで判断せず、医療・労務の専門家と連携することが重要です。

まとめ
メンタル不調による休職や復職は、企業にとって決して他人事ではありません。正しい知識と法令理解をもとに、従業員に寄り添った対応を行うことで、信頼関係の構築や職場環境の改善につながります。
特に、産業医との連携は復職支援において非常に有効です。人事担当者として、従業員の「働きたい」という気持ちを支える体制を整え、誰もが安心して働ける職場づくりを目指しましょう。
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【参考文献】