このような方に向けて書いています。
・就業判定の法的な扱いについて知りたい方
・就業判定とは何かを知りたい方
企業が従業員の健康を守り、安全な職場環境を維持するための重要な制度として就業判定があります。健康診断は実施するだけでは不十分で、その後のフォローアップが不可欠です。就業制限はそのフォローアップの一つです。
この記事では、就業判定の重要性と義務について解説し、企業の適切な対応方法とその義務を怠った場合のリスクについて考えていきます。
就業判定とは?
就業判定とは、企業が実施した健康診断の結果、健康上の問題が見つかった労働者に対して、産業医の意見をもとに行う就業上の措置に関する判断のことです。
この判定は、労働者が職業生活を通じて健康に働き続けられるよう、企業が労働者の健康状態を正確に把握し、適切に管理するために実施されます。
就業判定の区分
就業判定は以下の3つに区分されます。
①通常区分
通常通りの勤務でよい場合。
②就業制限
勤務に制限を加える必要のある場合。
勤務による負担を軽減するため、必要に応じて労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換等の措置を講じます。
③要休業
勤務を休む必要のある場合。
療養のため、休暇・休職などにより一定期間勤務させない措置を講じます。
就業制限の理由の分類例
①就業が持病の疾病経過に悪影響を与えるおそれがある
例)「心不全、腎不全や貧血を持つ労働者の重筋作業」など
②健康状態が原因で事故・災害につながるおそれがある
例)「一部の不整脈や脳疾患など、一過性意識障害をきたすおそれのある就業者の危険業務制限(運転業務や危険作業場など)」
③生活習慣に関連した重大な健康リスクがあり、勤務実態が適切な受診や生活習慣の確保を妨げているため、就業制限により健康管理を促す必要がある
例1)「糖尿病のコントロール不良者に対して、残業制限をかけ、規則正しい生活習慣の確保を促す」
例2)「脳心臓疾患のリスクの高い者に対して、残業制限をかけ、十分な睡眠時間の確保を促す」
企業における就業判定の法的義務
就業判定については労働安全衛生法で規定されています。
簡単にまとめると、企業は健康診断の結果に基づき、従業員の健康保持のために必要な措置について医師らから意見聴取を行うこと、この意見をもとに適切な措置を講じることが法的に義務付けられている、ということです。この適切な措置に就業判定も含まれます。
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第六十六条の四
事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
(健康診断実施後の措置)
第六十六条の五
事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
就業判定を行わなかった場合
就業判定などの義務付けられた措置を行わない場合、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
①罰金
就業判定は法的に義務付けられていますから、違反した場合は罰則が生じます。
特に、労働安全衛生法第百二十条で第六十六条の四の指示に違反した場合は50万円以下の罰金に処すると規定されています。
②労災認定による企業責任の追及
健康上の問題を抱えた労働者に対して適切な措置を講じずに働かせた結果、死亡や怪我、その他健康状態の悪化につながった場合、労災認定される可能性があります。
特に、過労死や重篤な職業病が発生した場合、企業や経営者に必要な措置を講じなかったとして業務上過失致死傷罪などの刑事責任が問われることもあります。
③民事訴訟(損害賠償請求)
適切な就業判定を行わなかったことで労働者が健康被害を受けた場合、企業に対して損害賠償請求がなされることがあります。場合によっては企業に対して数千万から一億円以上の賠償を請求されるケースもあります。
④労働基準監督署による企業イメージの低下
労働基準監督署の調査が入ると、企業名が公表されたり、ブラック企業のイメージがついてしまう可能性があります。これにより、企業ブランドの低下するほか、採用活動へ悪影響を及ぼしたり、取引先との関係が悪化したりする可能性があります。
就業判定の流れ
就業判定の流れは以下の通りです。
ステップ | 内容 | ポイント |
---|---|---|
1. 健康診断の実施 | 年1回の定期健康診断を実施 | 医療機関や産業保健センターで実施 |
2. 診断結果の通知 | 事業者から従業員へ結果を通知 | 個人結果票として提供され、検査結果や異常の有無を確認 |
3. 産業医による判定 | 就業の可否や必要な措置を判断 | 医学的知識をもとに、職場環境との関係を考慮して判断 |
4. 就業上の措置の決定 | 適切な措置を決定・実施 | 産業医の意見を参考に、従業員の同意を得て実施 |
ステップ順に説明します。
1. 健康診断の実施
事業者は、従業員の健康状態を確認し、安全に働ける環境を確保するために、年1回の定期健康診断を実施する義務があります。
健康診断は、医療機関や産業保健センターなどで行われます。
2. 診断結果の通知
健康診断が終了した後、事業者は診断結果を従業員に通知する必要があります。
通知は個人結果票として提供されるので、各従業員は自身の健康状態を正確に把握することができます。
診断結果には、検査結果、異常の有無、追加検査の必要性などが含まれます。
3. 産業医による判定
健康診断の結果を受けて、産業医が就業の可否や必要な措置の有無を判断します。
産業医は医学的な専門知識をもとに、従業員の健康状態と職場環境の関係を考慮し、適切な判断を下します。
健康診断の結果には判定区分がありますが、これはあくまで病気の有無や重症度を示すものであり、就業に適しているかどうかを示すものではありません。また、健康診断の実施機関により基準値が異なる場合もあります。判定区分の他にも労働時間やストレスチェックの結果、労働環境や労働者の希望も考慮する必要があるので、健康診断の判定区分だけでは、就業判定をしづらい場合も多いです。そのため、労働衛生と医学の専門家である産業医の存在が重要になるわけです。
4. 就業上の措置の決定
事業者は産業医の意見を参考にしながら、従業員の健康を守るための適切な措置を決定します。
この際、従業員の意見も尊重し、合意を得たうえで措置を実施することが求められます。

まとめ
就業判定は、企業が従業員の健康を守り、安全な職場環境を提供するための重要な制度です。年1回の健康診断を実施した後、産業医がその結果をもとに、従業員の就業可否や必要な措置を判断することにより、労働者の健康を害するリスクを軽減することが求められます。
企業は、健康診断結果の通知や産業医との連携を通じて、労働安全衛生法に基づく義務を果たさなければなりません。もしこの義務を怠ると、法的リスクや企業イメージの低下、最悪の場合、訴訟に発展する可能性もあるため、慎重かつ確実に対応することが大切です。
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【参考文献】
6人死亡・三幸製菓の工場火災 労働安全衛生法違反の疑い「不起訴」へ 《新潟》(TeNYテレビ新潟) – Yahoo!ニュース